「ナナが生まれた日のことは俺にとって一番古い記憶なのかもしれないな。

夜中に母さんが急に産気づいて、予定日よりも1ヶ月早い出産だった。

父さんに起こされて、今日みたいな雷雨の中、病院に行ったんだ」


わたしが生まれた日の詳しい話を聞くのは初めてだった。


「病院のうす暗い廊下で父さんが何度も何度も『どうか無事に生まれてきてください』と祈っている姿を見て、子供ながらに母さんが命がけでナナを産もうとしているのがわかったんだ。

だから父さんと一緒に無事に生まれてくるように必死になって祈った。

途中で父さんに抱かれて眠ってしまって、ナナの『オギャー!』という元気な泣き声で目が覚めた。

生まれたばかりのナナはとっても小さかったけど、ギュッと小さな拳を握って真っ赤な顔で元気に泣いていた。

かなりの難産だったらしくて母さんはものすごく疲れていたけど、『海翔の妹よ、可愛いでしょ?』って、優しく笑っていた。

病室に戻って窓の外を見たら、ちょうど雨が上がって朝日が昇ってくるところだった。

その時、空に大きな七色の虹が見えたんだ。今でもあれ以上綺麗な虹は見たことがない。
だから父さんはお前を和夏(ナナ)と名付けたんだ」



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