「お客さんて、本当に真面目で仕事も一生懸命してるし結婚するには申し分無い男性だと思うんだけど、でも女って生き物を判って無い気がするんだよね」
「それってどういう意味ですか?」
今迄それなりの人数の女性と付き合ってきた私にとってそれは意外な一言だった。
「あなたの彼女さんが言った、お金が無くても良いって言葉に対してあなたはどう思ってるの?」
「そんなの綺麗事だと思いますよ、所詮お金が無かったら生活出来ない訳だし。結婚すれば判ると思います」
「それが違うんだな~、今の言葉から少し女を舐めてるというか、やっぱり判ってないって思っちゃう、ふふ」
「ふふって、違うって言うんですか?」
「違うと言えば違う、違わないと言えば違わない」
「何ですか、それってさっぱり意味が判らないや」
「ははは、ごめん、ごめん。つまりお金が無いと駄目って女性も居るし、そうじゃない女性も居るって事。でも基本的にはそうじゃない女性の方が多いんじゃないかしら」
「まさか!こう言ったら失礼ですけど男より女の方がそう言う意味では現実的だと思いますよ、それに女性が家庭を守るように男は外で一生懸命仕事をするのが常識だと思います」
「常識ねえ・・・ねえその常識って誰が決めたの?」
ママは少し私の顔を覗き込むように尋ねた。
「誰って・・そんなの当たり前じゃないですか!」
「ねえ、どうしてそれが当たり前なの?どうして?」
改めてそう聞かれると私は明確に答える事が出来なかった。確かに当たり前や常識だと思っていたがそれを自分の言葉で上手く説明する事が出来なかった。
「いや、そう言われると・・でもそういう物じゃないですか。それが世間ってもんでしょ?」
私は苦し紛れにそう言うしか無かった。
「皆がそう言うからそう・・それって何か変!それってただの多数でしょ?私は多数が常識だとは思わないな」
ママが変な理屈を捏ねた。
「そんな事を言ったって・・・」
「あなたの言う『当たり前』や『常識』って何時の間にか他人に刷り込まれた物じゃないの?ちゃんと自分の頭で考えた物なのかしら?私思うんだけど今の世の中の常識と言われる物の中でそれをどれだけ自分の頭で考えてそうだと判断している人が居るのか疑問に感じる時があるの、皆考えないで親や先生、先輩や上司に刷り込まれてしまった、そんな気がするんだ」
ママの言葉は屁理屈にも思えたがそう言われてみると一理あるような気がした。
「皆がそうだから当たり前、じゃなくて多数と少数。そして少数はあくまで少数であって間違いでは無い、そう思うんだ。話は横に反れたけど、さっきのお金が無くても良いって女性の話ね、女性って本当に好きな男とならどんな苦労だってそれを苦労だと思わない生き物なの、逆にそれを楽しめる、ううん喜びにさえ感じられる。それをお客さんが判ってないって言いたかったの」
「いや、反対に男からしたら好きな女には苦労はさせたくないものですよ、それが男って生き物だと思うし、それが男としての義務だと私は思います」
私も自分の意見を曲げるつもりは無かった。
「それってただのエゴじゃないかしら、私はもっと女性を信頼しても良いと思うけど・・」
「信頼ですか?勿論信頼はしてますよ、だからこそ結婚しようと思っているんじゃないですか」
「う~ん、説明が難しい・・・」
どうやらママもどうやったら私が理解出来るのかお手上げのようであった。
「そうだ!こう言えば判り易いかしら。例えばなんだけど、あなたが仮に職を失ったりしたとしたら今の彼女さんはどうすると思う?あなたに愛想を尽かすと思う?」
「失業したらって事ですか?」
「そうね、失業もあるだろうし、途中で自分のやりたい事が出来て転職したりとか、それも不安定な仕事だったり、勿論病気になる事だってあるかもしれない」
「まあ会社が潰れるのは仕方が無いとして、仮に結婚してたらそんな先の見えない冒険はしないと思うな、というか出来ないですよ」
「あら、どうして?」
「それは結婚したら男としての責任があるからですよ、妻になる女性に苦労をさせないのは男として当たり前じゃないですか」
「まあ、当たり前かどうかは別として。私が聞いているのは仮にそうなった時にあなたの彼女さんが愛想を尽かすかどうかよ」
「参ったな、そんな前提の質問には答えられないけど・・・でも、う~ん、そうですね。やっぱり愛想を尽かされるような気がします」
「あら、どうして?」
「どうしてって・・・だって結婚を決める時には今の自分の仕事の事も含めて決めた訳ですから、それを私が反故にするような事をしたらやっぱりそうなるんじゃないですか?私は女性が好きという気持ちだけで結婚を決めてるとは思いませんから」
私は先程部長から聞いた話をそのままその理由として挙げた。
「なるほどね、だからあなたは女性を信頼してないって言うのよ、私はそれでも今の彼女さんはあなたに付いて行く気がするな」
ママさんは和美の事を知りもしないのに自信たっぷりにそう言い放った。
「そうですかね、私にはそうは思えませんが」
「その代わりにあなたがちゃんと彼女を信頼した上での話よ」
「信頼って?さっきも言ったけど信頼はしてますよ、ちゃんと」
「何て言ったら良いのかしら・・そうね、判り易く言うならあなたがちゃんと彼女の前で弱音を吐けるかどうか、かしら。どう?今迄彼女に対して弱音を吐いた事がある?」
またしてもママさんは可笑しな事を言い出した。
「無いですよ、そんな事一度も」
「一回も?」
「ええ、一回も」
確かに仕事に関して和美の前で愚痴は言ったかもしれなかったが、弱音を吐いた事は無かった、それは男として恥ずべき事だと思っていたからだ。
「だから不安なのよ、あなたの彼女さんは」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、弱音を吐く方が女性として不安を感じるんじゃないですか?」
私はママさんの言う事がさっぱり理解出来なかった。結局その後も他のお客が来ないのを良い事にこの話は白熱していったがいつまで経っても二人の話は平行線のままであった。
そして時計の針が十二時近くを指した頃、私は帰りの電車の都合でその店を後にした。
「それってどういう意味ですか?」
今迄それなりの人数の女性と付き合ってきた私にとってそれは意外な一言だった。
「あなたの彼女さんが言った、お金が無くても良いって言葉に対してあなたはどう思ってるの?」
「そんなの綺麗事だと思いますよ、所詮お金が無かったら生活出来ない訳だし。結婚すれば判ると思います」
「それが違うんだな~、今の言葉から少し女を舐めてるというか、やっぱり判ってないって思っちゃう、ふふ」
「ふふって、違うって言うんですか?」
「違うと言えば違う、違わないと言えば違わない」
「何ですか、それってさっぱり意味が判らないや」
「ははは、ごめん、ごめん。つまりお金が無いと駄目って女性も居るし、そうじゃない女性も居るって事。でも基本的にはそうじゃない女性の方が多いんじゃないかしら」
「まさか!こう言ったら失礼ですけど男より女の方がそう言う意味では現実的だと思いますよ、それに女性が家庭を守るように男は外で一生懸命仕事をするのが常識だと思います」
「常識ねえ・・・ねえその常識って誰が決めたの?」
ママは少し私の顔を覗き込むように尋ねた。
「誰って・・そんなの当たり前じゃないですか!」
「ねえ、どうしてそれが当たり前なの?どうして?」
改めてそう聞かれると私は明確に答える事が出来なかった。確かに当たり前や常識だと思っていたがそれを自分の言葉で上手く説明する事が出来なかった。
「いや、そう言われると・・でもそういう物じゃないですか。それが世間ってもんでしょ?」
私は苦し紛れにそう言うしか無かった。
「皆がそう言うからそう・・それって何か変!それってただの多数でしょ?私は多数が常識だとは思わないな」
ママが変な理屈を捏ねた。
「そんな事を言ったって・・・」
「あなたの言う『当たり前』や『常識』って何時の間にか他人に刷り込まれた物じゃないの?ちゃんと自分の頭で考えた物なのかしら?私思うんだけど今の世の中の常識と言われる物の中でそれをどれだけ自分の頭で考えてそうだと判断している人が居るのか疑問に感じる時があるの、皆考えないで親や先生、先輩や上司に刷り込まれてしまった、そんな気がするんだ」
ママの言葉は屁理屈にも思えたがそう言われてみると一理あるような気がした。
「皆がそうだから当たり前、じゃなくて多数と少数。そして少数はあくまで少数であって間違いでは無い、そう思うんだ。話は横に反れたけど、さっきのお金が無くても良いって女性の話ね、女性って本当に好きな男とならどんな苦労だってそれを苦労だと思わない生き物なの、逆にそれを楽しめる、ううん喜びにさえ感じられる。それをお客さんが判ってないって言いたかったの」
「いや、反対に男からしたら好きな女には苦労はさせたくないものですよ、それが男って生き物だと思うし、それが男としての義務だと私は思います」
私も自分の意見を曲げるつもりは無かった。
「それってただのエゴじゃないかしら、私はもっと女性を信頼しても良いと思うけど・・」
「信頼ですか?勿論信頼はしてますよ、だからこそ結婚しようと思っているんじゃないですか」
「う~ん、説明が難しい・・・」
どうやらママもどうやったら私が理解出来るのかお手上げのようであった。
「そうだ!こう言えば判り易いかしら。例えばなんだけど、あなたが仮に職を失ったりしたとしたら今の彼女さんはどうすると思う?あなたに愛想を尽かすと思う?」
「失業したらって事ですか?」
「そうね、失業もあるだろうし、途中で自分のやりたい事が出来て転職したりとか、それも不安定な仕事だったり、勿論病気になる事だってあるかもしれない」
「まあ会社が潰れるのは仕方が無いとして、仮に結婚してたらそんな先の見えない冒険はしないと思うな、というか出来ないですよ」
「あら、どうして?」
「それは結婚したら男としての責任があるからですよ、妻になる女性に苦労をさせないのは男として当たり前じゃないですか」
「まあ、当たり前かどうかは別として。私が聞いているのは仮にそうなった時にあなたの彼女さんが愛想を尽かすかどうかよ」
「参ったな、そんな前提の質問には答えられないけど・・・でも、う~ん、そうですね。やっぱり愛想を尽かされるような気がします」
「あら、どうして?」
「どうしてって・・・だって結婚を決める時には今の自分の仕事の事も含めて決めた訳ですから、それを私が反故にするような事をしたらやっぱりそうなるんじゃないですか?私は女性が好きという気持ちだけで結婚を決めてるとは思いませんから」
私は先程部長から聞いた話をそのままその理由として挙げた。
「なるほどね、だからあなたは女性を信頼してないって言うのよ、私はそれでも今の彼女さんはあなたに付いて行く気がするな」
ママさんは和美の事を知りもしないのに自信たっぷりにそう言い放った。
「そうですかね、私にはそうは思えませんが」
「その代わりにあなたがちゃんと彼女を信頼した上での話よ」
「信頼って?さっきも言ったけど信頼はしてますよ、ちゃんと」
「何て言ったら良いのかしら・・そうね、判り易く言うならあなたがちゃんと彼女の前で弱音を吐けるかどうか、かしら。どう?今迄彼女に対して弱音を吐いた事がある?」
またしてもママさんは可笑しな事を言い出した。
「無いですよ、そんな事一度も」
「一回も?」
「ええ、一回も」
確かに仕事に関して和美の前で愚痴は言ったかもしれなかったが、弱音を吐いた事は無かった、それは男として恥ずべき事だと思っていたからだ。
「だから不安なのよ、あなたの彼女さんは」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、弱音を吐く方が女性として不安を感じるんじゃないですか?」
私はママさんの言う事がさっぱり理解出来なかった。結局その後も他のお客が来ないのを良い事にこの話は白熱していったがいつまで経っても二人の話は平行線のままであった。
そして時計の針が十二時近くを指した頃、私は帰りの電車の都合でその店を後にした。