一度だけ、しかも酔って行った店であったが私は直ぐにその店を見付ける事が出来た。
「いらっしゃいませ、あらお久し振りですね」
「すいません、あれから忙しくて中々来れなくて」
久し振りにも関わらずママは私の事を覚えてくれていた。
「大丈夫ですよ、暇な時に来て頂ければ。それにうちのお店はボトルのキープ期間なんかないからボトルも流れないし」
店は私の予想通り時間も早いとあって他に客は居なかった。
「じゃあ久し振りな分少しは売り上げに協力しないと、ママさんも何か飲んで下さい」
「あら嬉しい、じゃあお言葉に甘えて」
そう言うとママさんはビール、自分は水割りで乾杯をした。相変わらず静かな空間に流れる気の利いた音楽が心地良かった。やはりここだけは時間の流れが他と違うように感じる。
「今日もお仕事でお客様と?」
「いや、今日は上司の付き合いで、というか私の個人的な相談があって飲んでました」
「個人的な相談迄乗ってくれるなんて良い上司の方なんですね」
「ええ、まあ。上司としても人生の先輩としても尊敬出来る人です」
「じゃあ今度は一緒に来て下さいね、私も会ってみたいから」
「そうですね、機会があったら是非」
そう言った私であったが部長を此処に連れて来る気にはなれなかった。直観的ではあったがこの店の雰囲気が何故か部長に合わない気がしたからである。
「あ~、美味しい。やだ、私ったら一気に飲んじゃったわ」
「ああ、気にしないでもう一杯飲んで下さい、確かに今日は少し暑いからビールが美味いですよね」
そう言って私は更にビールを勧めた。
そして暫く他愛も無い話をし、酒を飲んでいるとママの方から先程の話を話題にしてきた。
「そう言えばさっき言っていた個人的な相談ってどんな話なの?差支えなかったら私にも教えてくれないかしら」
私は内心しめたと思った、女性の意見を聞いてみたいとは思ってこの店に来たが、あえて自分からその話を振りたくなかったからだ。
「ああ、まあ大した話じゃないんですけどね。実は自分には付き合っている女性が居て、それで付き合いも長いし仕事にもそれなりに自信がついたので結婚をしようかと先日思い切って結婚を申し込んだんですよ、そしたら・・」
「もしかして断られちゃったの?」
ママは少しだけ表情を曇らせた。
「いや、きっぱり断られた訳ではないんですけど・・・今の自分と結婚するのが不安だと言われて・・それで何が何だか判らなくなったんですよ」
「不安?不安って一体何が不安なのかしらね、彼女さん」
「それが良く判らないんですよね。最近の自分が仕事ばかりだからって、そりゃ昔に比べてお互い忙しくなったから平日に会うのは少なくなりましたよ、それにしたって休みの日はちゃんと会ってるし、なのに・・・」
私はあえて判らない素振りをしたが内心は和美の方が間違っている、それは女の我儘だというママからの言葉を待っていた。
「一つ聞いてもいいかしら?」
「どうぞ」
「休みの日に会っている貴方達ってどんな会話をしているのかしら?」
「どんなって・・自分は会社の話になりますね。自分が今どんな仕事をしているか話したいし、それにどれだけ頑張っているかも判って貰いたいから」
「ふ~ん、それで」
「それでって」
私はママが何を言いたいのかが判らなかった。
「あなたがその話をしている時に彼女さんはどうしているの?」
「何をって・・・そりゃ自分の話を聞いてくれてますよ。時折大変だねとか、頑張ってるね、とか言いながら」
「もう一つ聞いても良いかしら」
「ええ、どうぞ」
「あなたは結婚したら仕事優先?それとも家庭優先?」
「そんなの仕事優先に決まってるじゃないですか!」
私は間髪入れずにそう答えた。
「なるほどね、私は彼女さんの不安が何と無くだけど判った気がするわ」
「え?どういう事ですか」
「多分あなたの彼女さんは結婚したら仕事優先になる今のあなたに対して一緒に暮らすのが不安なんだと思う」
ママが和美と同じような事を言ったので私はとても驚いた。
「ママさん、何を言ってるんですか?仕事をしないと生活出来ないじゃないですか!一体それの何が駄目だって言うんですか?和美も、自分の彼女もお金が無くても良いなんて言ったけどそんな事がある訳が無いですよ」
私は和美に対して強く言えなかった胸の内を代わりにママにぶつけた。
「気に障ったらごめんなさい、でも私は彼女さんの気持ちが判るっていうか、同じタイプの女性なのかもしれないな」
ママは遠くを見るようにそう呟いた、私は次にママが何を言うのかその言葉を待った。
「最初に会った時にお客さん私に聞いたわよね、彼氏はって?実は私にも何年も付き合ってる男性が居るの、それもどうしようも無いのが、ふふふ」
「どうしようも無いって?」
「あは、別に暴力を振るうとか、朝から仕事もしないで酒を飲むとか、そんなんじゃないのよ、ただお客さんから見たらって意味」
「一体どんな人なんですか?その彼氏って」
「まあ、自称音楽家、でもデビューしてないから卵ね、ふふふ」
「仕事は?仕事は何をしてるんですか?」
「ちゃんとした仕事はしてないわ、たまにアルバイトみたいな演奏の依頼があったりするとそれをやってる程度、後は時間があると自分の曲を作ったりしてる」
「言っちゃ悪いですけど最低じゃないですか!どうやって生活してるんですか、その人」
私は同じ男としてそんないい加減な生き方をしている奴が許せなかった。
「最低か・・まあ普通の人から見たらそうだよね。生活は・・今は私が面倒を見てる」
ママは苦笑いしながらそう言った。
「う~ん、何かある意味ショックというか、その人もママも自分からしたらまったく理解出来ませんよ、それで自分の彼女がママさんと同じタイプの女性だっていうんですか?」
私はこんな好い加減で世間の常識と懸け離れた人種と和美が同じである訳が無いと思った、いや思いたくなかった。
「同じというか・・まあそうね。タイプが似てるというか、でもそれって全ての女性に共通してる事だと思うんだけど。本当に気に障ったらごめんなさい、って先に謝っちゃうんだけど、一つだけ言っても良いかしら?」
「ええ、どうぞ。何でも言って下さい、こうなったらトコトン話しましょうよ、この件に付いて」
ここまできたらママと客とではなく常識対非常識の戦いのような気分になっていた。
「いらっしゃいませ、あらお久し振りですね」
「すいません、あれから忙しくて中々来れなくて」
久し振りにも関わらずママは私の事を覚えてくれていた。
「大丈夫ですよ、暇な時に来て頂ければ。それにうちのお店はボトルのキープ期間なんかないからボトルも流れないし」
店は私の予想通り時間も早いとあって他に客は居なかった。
「じゃあ久し振りな分少しは売り上げに協力しないと、ママさんも何か飲んで下さい」
「あら嬉しい、じゃあお言葉に甘えて」
そう言うとママさんはビール、自分は水割りで乾杯をした。相変わらず静かな空間に流れる気の利いた音楽が心地良かった。やはりここだけは時間の流れが他と違うように感じる。
「今日もお仕事でお客様と?」
「いや、今日は上司の付き合いで、というか私の個人的な相談があって飲んでました」
「個人的な相談迄乗ってくれるなんて良い上司の方なんですね」
「ええ、まあ。上司としても人生の先輩としても尊敬出来る人です」
「じゃあ今度は一緒に来て下さいね、私も会ってみたいから」
「そうですね、機会があったら是非」
そう言った私であったが部長を此処に連れて来る気にはなれなかった。直観的ではあったがこの店の雰囲気が何故か部長に合わない気がしたからである。
「あ~、美味しい。やだ、私ったら一気に飲んじゃったわ」
「ああ、気にしないでもう一杯飲んで下さい、確かに今日は少し暑いからビールが美味いですよね」
そう言って私は更にビールを勧めた。
そして暫く他愛も無い話をし、酒を飲んでいるとママの方から先程の話を話題にしてきた。
「そう言えばさっき言っていた個人的な相談ってどんな話なの?差支えなかったら私にも教えてくれないかしら」
私は内心しめたと思った、女性の意見を聞いてみたいとは思ってこの店に来たが、あえて自分からその話を振りたくなかったからだ。
「ああ、まあ大した話じゃないんですけどね。実は自分には付き合っている女性が居て、それで付き合いも長いし仕事にもそれなりに自信がついたので結婚をしようかと先日思い切って結婚を申し込んだんですよ、そしたら・・」
「もしかして断られちゃったの?」
ママは少しだけ表情を曇らせた。
「いや、きっぱり断られた訳ではないんですけど・・・今の自分と結婚するのが不安だと言われて・・それで何が何だか判らなくなったんですよ」
「不安?不安って一体何が不安なのかしらね、彼女さん」
「それが良く判らないんですよね。最近の自分が仕事ばかりだからって、そりゃ昔に比べてお互い忙しくなったから平日に会うのは少なくなりましたよ、それにしたって休みの日はちゃんと会ってるし、なのに・・・」
私はあえて判らない素振りをしたが内心は和美の方が間違っている、それは女の我儘だというママからの言葉を待っていた。
「一つ聞いてもいいかしら?」
「どうぞ」
「休みの日に会っている貴方達ってどんな会話をしているのかしら?」
「どんなって・・自分は会社の話になりますね。自分が今どんな仕事をしているか話したいし、それにどれだけ頑張っているかも判って貰いたいから」
「ふ~ん、それで」
「それでって」
私はママが何を言いたいのかが判らなかった。
「あなたがその話をしている時に彼女さんはどうしているの?」
「何をって・・・そりゃ自分の話を聞いてくれてますよ。時折大変だねとか、頑張ってるね、とか言いながら」
「もう一つ聞いても良いかしら」
「ええ、どうぞ」
「あなたは結婚したら仕事優先?それとも家庭優先?」
「そんなの仕事優先に決まってるじゃないですか!」
私は間髪入れずにそう答えた。
「なるほどね、私は彼女さんの不安が何と無くだけど判った気がするわ」
「え?どういう事ですか」
「多分あなたの彼女さんは結婚したら仕事優先になる今のあなたに対して一緒に暮らすのが不安なんだと思う」
ママが和美と同じような事を言ったので私はとても驚いた。
「ママさん、何を言ってるんですか?仕事をしないと生活出来ないじゃないですか!一体それの何が駄目だって言うんですか?和美も、自分の彼女もお金が無くても良いなんて言ったけどそんな事がある訳が無いですよ」
私は和美に対して強く言えなかった胸の内を代わりにママにぶつけた。
「気に障ったらごめんなさい、でも私は彼女さんの気持ちが判るっていうか、同じタイプの女性なのかもしれないな」
ママは遠くを見るようにそう呟いた、私は次にママが何を言うのかその言葉を待った。
「最初に会った時にお客さん私に聞いたわよね、彼氏はって?実は私にも何年も付き合ってる男性が居るの、それもどうしようも無いのが、ふふふ」
「どうしようも無いって?」
「あは、別に暴力を振るうとか、朝から仕事もしないで酒を飲むとか、そんなんじゃないのよ、ただお客さんから見たらって意味」
「一体どんな人なんですか?その彼氏って」
「まあ、自称音楽家、でもデビューしてないから卵ね、ふふふ」
「仕事は?仕事は何をしてるんですか?」
「ちゃんとした仕事はしてないわ、たまにアルバイトみたいな演奏の依頼があったりするとそれをやってる程度、後は時間があると自分の曲を作ったりしてる」
「言っちゃ悪いですけど最低じゃないですか!どうやって生活してるんですか、その人」
私は同じ男としてそんないい加減な生き方をしている奴が許せなかった。
「最低か・・まあ普通の人から見たらそうだよね。生活は・・今は私が面倒を見てる」
ママは苦笑いしながらそう言った。
「う~ん、何かある意味ショックというか、その人もママも自分からしたらまったく理解出来ませんよ、それで自分の彼女がママさんと同じタイプの女性だっていうんですか?」
私はこんな好い加減で世間の常識と懸け離れた人種と和美が同じである訳が無いと思った、いや思いたくなかった。
「同じというか・・まあそうね。タイプが似てるというか、でもそれって全ての女性に共通してる事だと思うんだけど。本当に気に障ったらごめんなさい、って先に謝っちゃうんだけど、一つだけ言っても良いかしら?」
「ええ、どうぞ。何でも言って下さい、こうなったらトコトン話しましょうよ、この件に付いて」
ここまできたらママと客とではなく常識対非常識の戦いのような気分になっていた。