それから私は忙しい日々に追われすっかりその店の事は忘れていた。お蔭で仕事は順調、上司の覚えも良く毎日遅く迄残業して体は疲労していたが精神的には充実していた。
勿論平日でも上司や顧客と遅く迄酒を飲む事があり、そういう時は流石に次の日身体が悲鳴を上げていたが、それでも誰よりも早く会社に出社しそんな自分を誇らしく思っていた。
私生活でも学生時代から付き合っている彼女が居る私は、仕事も順調だったので近々彼女にプロポーズをするつもりだった、今なら彼女を養っていけるだけの自信があったからだ。
彼女である神田和美とは大学二年の時から付き合い始めて六年、結婚するには男としたら少し早い気もしたが、女性の年齢を考えると丁度良い年齢だと思っていた。
仕事が忙しく平日に会う事は以前よりもかなり減ってはいたが、それでも二週間に一度休みの日には会っていた。
そしてそんなある土曜日、高級ホテルのレストランを予約した私はそこで彼女に対しプロポーズをしようと決めていた、勿論ポケットには事前に用意した指輪があった。
やはり人生の転機となる大事な事はいつもと違った場所でロマンチックに決めた方が和美も喜ぶと思ったからだ。
そして久し振りに会った私は食事が終わると夜景を楽しみながら食後のコーヒーを飲む和美に対しポケットから小さな小包を出すと一世一代のプロポーズの言葉を口にした。
しかし私の予想とは裏腹に和美は喜んでそのプロポーズを受け入れるどころか、驚く事に返事を少し待って欲しいと言い出したのだ。
「和美、一体どうしてなんだ、俺の事が嫌いになったのか?それとも他に誰か好きな男でも出来たのか?」
和美の言葉が信じられなかった私は真剣な顔で和美に詰め寄った。
「ううん、そうじゃないけど。ただ・・」
「ただ?ただ何なんだって言うんだい」
「あなたの事は好きよ、でもこのままあなたと結婚するのが不安なの」
「何だって!」
私はその言葉が信じられなかった、仕事も頑張って上司の覚えも良い自分に対し何が不安なのか全く判らなかった。
「一生懸命仕事を頑張って同期の中で一番成績の良い俺の一体何が不安だって言うんだ?このまま行けば将来役員だって夢じゃないんだぜ」
「だから不安なの!最近のあなたは会うと仕事の話ばっかり、それに平日に私が会いたいと言っても仕事を優先して会ってくれないし、電話だって折り返し掛かってこない時だってある。だからそんなあなたと暮らすのが不安なのよ!」
和美は今迄言えなかった不満を感情的に私に対してぶつけてきた。
「そ、そんな事言ったって・・・和美だって俺が仕事を頑張っているのを認めてくれたじゃないか、それに俺が何の為にこんなに一生懸命働いていると思っているんだい?将来結婚したら和美や生まれてくる子供に良い生活をさせてやれると思っているからじゃないか、それを・・・」
「ううん、違う、あなたは忙しい自分にただ酔っているだけだわ。それに私が求めているのはそんな生活じゃないの!例えお金が無くても一緒になって悩んだり苦労したり、そうやって人生を共に歩んで行きたいの、私が考えている結婚とはそういうものなの」
和美は最後涙声になっていた。私はそれを聞いて何も言えなくなってしまった。いや言えないというよりも、和美がそんな事を考えているとはこれまで微塵も知らなかった。
それにお金が無くても良いと言った意味が全く理解出来なかった。男が一生懸命働いて金を多く稼ぐ事の何が駄目なのか、それがまったく理解出来なかった。
結局プロポーズをしてロマンチックな夜になる筈が予想だにしない展開になってしまった。
私は何とか和美を宥めると彼女をタクシーに乗せ一人で帰らせた。
勿論平日でも上司や顧客と遅く迄酒を飲む事があり、そういう時は流石に次の日身体が悲鳴を上げていたが、それでも誰よりも早く会社に出社しそんな自分を誇らしく思っていた。
私生活でも学生時代から付き合っている彼女が居る私は、仕事も順調だったので近々彼女にプロポーズをするつもりだった、今なら彼女を養っていけるだけの自信があったからだ。
彼女である神田和美とは大学二年の時から付き合い始めて六年、結婚するには男としたら少し早い気もしたが、女性の年齢を考えると丁度良い年齢だと思っていた。
仕事が忙しく平日に会う事は以前よりもかなり減ってはいたが、それでも二週間に一度休みの日には会っていた。
そしてそんなある土曜日、高級ホテルのレストランを予約した私はそこで彼女に対しプロポーズをしようと決めていた、勿論ポケットには事前に用意した指輪があった。
やはり人生の転機となる大事な事はいつもと違った場所でロマンチックに決めた方が和美も喜ぶと思ったからだ。
そして久し振りに会った私は食事が終わると夜景を楽しみながら食後のコーヒーを飲む和美に対しポケットから小さな小包を出すと一世一代のプロポーズの言葉を口にした。
しかし私の予想とは裏腹に和美は喜んでそのプロポーズを受け入れるどころか、驚く事に返事を少し待って欲しいと言い出したのだ。
「和美、一体どうしてなんだ、俺の事が嫌いになったのか?それとも他に誰か好きな男でも出来たのか?」
和美の言葉が信じられなかった私は真剣な顔で和美に詰め寄った。
「ううん、そうじゃないけど。ただ・・」
「ただ?ただ何なんだって言うんだい」
「あなたの事は好きよ、でもこのままあなたと結婚するのが不安なの」
「何だって!」
私はその言葉が信じられなかった、仕事も頑張って上司の覚えも良い自分に対し何が不安なのか全く判らなかった。
「一生懸命仕事を頑張って同期の中で一番成績の良い俺の一体何が不安だって言うんだ?このまま行けば将来役員だって夢じゃないんだぜ」
「だから不安なの!最近のあなたは会うと仕事の話ばっかり、それに平日に私が会いたいと言っても仕事を優先して会ってくれないし、電話だって折り返し掛かってこない時だってある。だからそんなあなたと暮らすのが不安なのよ!」
和美は今迄言えなかった不満を感情的に私に対してぶつけてきた。
「そ、そんな事言ったって・・・和美だって俺が仕事を頑張っているのを認めてくれたじゃないか、それに俺が何の為にこんなに一生懸命働いていると思っているんだい?将来結婚したら和美や生まれてくる子供に良い生活をさせてやれると思っているからじゃないか、それを・・・」
「ううん、違う、あなたは忙しい自分にただ酔っているだけだわ。それに私が求めているのはそんな生活じゃないの!例えお金が無くても一緒になって悩んだり苦労したり、そうやって人生を共に歩んで行きたいの、私が考えている結婚とはそういうものなの」
和美は最後涙声になっていた。私はそれを聞いて何も言えなくなってしまった。いや言えないというよりも、和美がそんな事を考えているとはこれまで微塵も知らなかった。
それにお金が無くても良いと言った意味が全く理解出来なかった。男が一生懸命働いて金を多く稼ぐ事の何が駄目なのか、それがまったく理解出来なかった。
結局プロポーズをしてロマンチックな夜になる筈が予想だにしない展開になってしまった。
私は何とか和美を宥めると彼女をタクシーに乗せ一人で帰らせた。