私がその店に寄ったのはほんの偶然だった。その日取引先と大きな商談が決まった私はその会社の担当者を接待し長い夜を覚悟していたが、意外にも先方が早く帰ると言い出したので肩透かしを喰ったような気分になっていた。
(何か予定が狂ったな)
時計を見ると九時を少し回ったばかりであった。
通いに通い詰めやっと契約まで漕ぎ着けた私は、一件目の店の酔いも手伝って真っすぐ家に帰る気にはなれなかった。
私は少しフラフラとした足取りで軽く飲める店を探していた。
店の前で熱心に呼び込みをしている店や派手な看板の店には何故か入る気にはなれなく、軽く静かな所で飲みたかった私は裏道を入った場所にある少し寂れた小さなスナックの看板を目にすると吸い寄せられるようにそこに入った。
「いらっしゃいませ」
店に入るとカウンターの中から一人の女性が声を掛けた。どうやら彼女がここのママらしい。歳の頃は三十を少し過ぎた頃であろうか、ママにしては少し若いような気がした。
癖っ毛なのか、軽くウエーブが掛かった髪にクリクリした猫のような目が印象的だった。
「お一人ですか?」
店はカウンターの他にはテーブル席が三つ程ある小さな店であった。一人だと告げるとママは笑顔で私をカウンターに座るよう促した。
「お客さん初めてですよね」
「ええ、さっきまで人と飲んでいたんですけど相手が早く帰ってしまって、それでちょっと飲み足りなくて」
大きな契約が決まった私はかなり饒舌になっていた。
「そうですか、時間もまだ早いですものね。じゃあゆっくりここで飲み直して下さい。お酒はビールにします?それとも何か?」
「じゃあ何かウイスキーをボトルで入れて下さい」
別にこの店に通うつもりも無かったが、会社から先払いして貰っていた経費が残っていた私はボトルを入れた。
ママは手際良く水割りを作ると私はそれを一気に半分迄飲み干した。
「楽しそうですね、何か良い事でもあったんですか?お客さん」
「あれ?判ります?いや、実は今日大きな仕事が上手くいって」
「そうですか、良かったですね。じゃあ私も一緒にお祝いしようかな?何か頂いても良いかしら?」
「あ、これは気付かなかったな。どうぞ好きな物を飲んで下さい」
「じゃあ遠慮無く」
そう言うとママは自分のグラスにビールを注いだ。
「じゃあ乾杯、お仕事おめでとうございます」
「ああ、どうも有難うございます」
初めて会った人とはいえ今の私はそれを言われるのが何よりも嬉しかった。店は今時カラオケも無く静かなジャズが流れていた、それも今の気分には心地よかった。
ここだけが少し時間の流れが違う、そんなように感じられた。自分の他には初老の男性と彼の奥さんであろうか、四十を少し超えたであろう女性が静かにお酒を飲んでいた。
特に会話をしているようにも見えなかったが、二人の間に漂う空気は一種独特の雰囲気を醸し出していて二人が特別な関係である事が傍で見ても判った。
「会社は近いんですか?」
「ええ、まあ。でもここは初めて来たけど落ち着いてて中々良い店ですね」
「本当に?嬉しいな。実は母が始めたお店を私が譲り受けたんですよ」
そう言われたママはとても嬉しそうに笑った。
お世辞でも何でも無く私はそう思った。少しレトロな雰囲気と年季の入ったカウンター、そして飲み屋ならではの独特の匂いがとても良くマッチしていた。
「でもね、ママさん。今日の契約を取るのって時間が掛かったんですよ、それこそ最初は門前払い、そこを熱心に通ってやっと担当者に会って・・」
私は今日の成果を誰かに言いたくて仕方が無かった。勿論こんな話は会社ですれば良いのは判っていたが、社内で自慢気に話すのも嫌だったし同期から妬まれるのも心配だった。
「じゃあ今日はとても気分が良い一日だったんですね」
「ですね、やっぱり男は仕事ですから、仕事が出来なければ男として一人前じゃないと思うんですよ」
私は普段会社の上司から言われている事をそのまま自分の言葉のように口にした。
通常新入社員は入社して五年は会社に対して利益を還元できないと言われていたが、私は今日の契約でそれよりも早く会社に対し利益を還元出来たと自負していた。
「そんな一人前じゃないだなんて・・皆普通に働いているだけで良いじゃないですか」
「いや、普通じゃ駄目ですよ、やっぱり男はバリバリ仕事しないとね。じゃないと彼女だって出来ないし、現実問題それこそ結婚だって出来ないですよ、最近の女性は理想が高いから。ははは」
「まあ・・そうなのかな?」
それを聞いたママはどう言って良いか判らない表情を浮かべたが、私はそれに気付かずに一人で如何に男の仕事が大変か、そしてどれだけ大事であるかを有頂天になって話した。
流石に慣れたものなのかママさんは私の話を嫌な顔もせずニコニコとしながら聞いていた。
私はそれがとても心地良く更に話を続けた。
色々と話すうちにママさんはやはり自分より少し年上で、以前は普通に会社に勤めていたがお母さんが病気で亡くなったのをきっかけに仕事を辞めこの店を引き継いだ事が判った。
「初めて会ったのにこんな事を聞くのは失礼かもしれないけどママさんは結婚してるの?」
「ええ?いきなりそんな事を聞くの?残念ながら独身です」
「良かった!初めて来ていきなり結婚してたらこれから通う気が失せちゃうよ、じゃあ恋人は?それだけ綺麗なんだから居るでしょ?どんな人なの、彼氏って」
酔いが回っていた私は尚もしつこくそう尋ねた。しかし酔ってはいたがママが綺麗なのは本当だった。
「恋人はここに来てくれるお客さん全員よ」
「参ったなあ、上手い切り返しだ、ははは」
そんな話で盛り上がっているとテーブル席で飲んでいた二人が店を後にした。
「有難うございました、お気を付けて」
帰る二人を外まで見送ると店はママと私だけになった。
「ねえ、ママさん。今帰った夫婦って結構歳が離れているね、でも仲良く飲んでいてなんか良い感じだよね」
「ああ、種村さんと中崎さんの事?あの二人は夫婦じゃないわ」
「え、そうなの?じゃあ不倫?」
「ふふふ、お客さんって面白いのね、今の二人はれっきとした恋人同士よ」
そう聞かされた私はとても驚いた。
「恋人同士?あの年齢で?」
確かに世間一般で言えば恋人同士という言葉は似合わなかった。
「まあ他のお客さんの事をあれこれ言うのはいけない事だけど。種村さんはね、十年前に奥様を病気で亡くされてそれからずっとお一人なの。そして中崎さんは種村さんの会社で一緒に働いていた元部下」
「へえ、じゃあその時から関係が?」
「ふふふ、お客さんって本当に面白い人ね」
「それってどういう意味?」
私は少し小馬鹿にされたような気持ちになった。
「あ、ごめんなさい。確かに中崎さんが種村さんにその当時から好意があったのは確かみたい、でもね、種村さんは奥様が居たから決してその気持ちを受け入れた事はないのよ、以前に中崎さんが一人で酔い潰れた時にそう言ってた。ただ種村さんにとって中崎さんは一人の人間として、そして部下として大事な存在なのは確かだったようね」
「真面目なんだな、普通だったら一度くらい間違いがあっても不思議じゃないけど」
「お客さんだったら受け入れちゃうの?その状況だったら」
「そりゃ・・判らないけど、女の方から好意を寄せられたら断れないでしょ?男だったら。俺の回りもそうやって結構不倫して楽しんでいるのも居るし」
「不倫ね、不倫て人の倫(みち)(な)不らず、って意味なのよね、つまり人としてやってはいけない事。そういう意味から言ったらあの二人も不倫になるのかもしれないけど」
「え、そういう意味なの?俺はてっきり結婚してる人が奥さんや旦那さん以外の人とエッチする事だと思ってた、時代劇でいう不義密通と同じ意味かと」
私は初めて不倫の言葉の意味を知った。
「私が思うに不倫てさ、ある意味仕方が無い事だと思うんだ、だってそうでしょ?たまたま出会った順番が違っていたり、好きになった相手が結婚していたり」
「だからそれが不倫でしょ?」
「まあ、それはそうなんだけど・・でもね、結婚していても他の人を好きになるのは仕方がないと思う、人の気持ちって止められないから。でもそれを行動に移すかどうかが大きく違うと思うのよね」
「つまり?どういう事?」
私はママが言っている言葉の意味が判らなかった。
「上手く言えないけど精神的不倫って言うのかな、相手が異性だから世間からは認められないけど相手の事を人間として好き、人生の後輩として心配する、みたいな。そういう気持ちのやりとりなら良いと思う、でも今の不倫は直ぐに深い関係になるでしょ?それこそ動物チックに、そういのはパートナーに対する不貞行為で許されない事だと思うの」
「う~ん、ママの言う事も判るような、判らないような・・・」
「ふふ、ごめんなさい上手く説明出来なくて」
ママは自分でも少し熱くなり過ぎたと思ったようであった。
「でもね、何の因果か種村さんの奥様が亡くなってしまって、でも種村さんは未だに奥様の事を想っているから。ううん、奥さんに対して申し訳無いって気持ちなのかな?中崎さんの気持ちは受け入れられない、だからと言って中崎さんも他の人を好きになれない、なのでたまに会って一緒に時を過ごす」
「益々持って判らない!そんな中途半端な関係で良いの?好きなら好きで一緒になれば良いのに」
「う~ん、良いとか悪いとかじゃなくて仕方が無い、そして今の二人にはその関係が一番良いんじゃないかしら。好きな相手と会いたい時に会う、その方が自然で良い気がするわ。結婚という形や世間の常識に捉われてないというか、それが人間本来の在り方のような気がするな」
私はその話を聞いてもまるで意味が判らなかった。
そして申し訳無い言い方であるが、こういう場末の飲み屋に来るようなお客や、そこで働いている水商売のママはやはり普通の人と常識が違うと感じた。
それから私は話題を変え適当な時間迄飲むとその店を後にした。
(何か予定が狂ったな)
時計を見ると九時を少し回ったばかりであった。
通いに通い詰めやっと契約まで漕ぎ着けた私は、一件目の店の酔いも手伝って真っすぐ家に帰る気にはなれなかった。
私は少しフラフラとした足取りで軽く飲める店を探していた。
店の前で熱心に呼び込みをしている店や派手な看板の店には何故か入る気にはなれなく、軽く静かな所で飲みたかった私は裏道を入った場所にある少し寂れた小さなスナックの看板を目にすると吸い寄せられるようにそこに入った。
「いらっしゃいませ」
店に入るとカウンターの中から一人の女性が声を掛けた。どうやら彼女がここのママらしい。歳の頃は三十を少し過ぎた頃であろうか、ママにしては少し若いような気がした。
癖っ毛なのか、軽くウエーブが掛かった髪にクリクリした猫のような目が印象的だった。
「お一人ですか?」
店はカウンターの他にはテーブル席が三つ程ある小さな店であった。一人だと告げるとママは笑顔で私をカウンターに座るよう促した。
「お客さん初めてですよね」
「ええ、さっきまで人と飲んでいたんですけど相手が早く帰ってしまって、それでちょっと飲み足りなくて」
大きな契約が決まった私はかなり饒舌になっていた。
「そうですか、時間もまだ早いですものね。じゃあゆっくりここで飲み直して下さい。お酒はビールにします?それとも何か?」
「じゃあ何かウイスキーをボトルで入れて下さい」
別にこの店に通うつもりも無かったが、会社から先払いして貰っていた経費が残っていた私はボトルを入れた。
ママは手際良く水割りを作ると私はそれを一気に半分迄飲み干した。
「楽しそうですね、何か良い事でもあったんですか?お客さん」
「あれ?判ります?いや、実は今日大きな仕事が上手くいって」
「そうですか、良かったですね。じゃあ私も一緒にお祝いしようかな?何か頂いても良いかしら?」
「あ、これは気付かなかったな。どうぞ好きな物を飲んで下さい」
「じゃあ遠慮無く」
そう言うとママは自分のグラスにビールを注いだ。
「じゃあ乾杯、お仕事おめでとうございます」
「ああ、どうも有難うございます」
初めて会った人とはいえ今の私はそれを言われるのが何よりも嬉しかった。店は今時カラオケも無く静かなジャズが流れていた、それも今の気分には心地よかった。
ここだけが少し時間の流れが違う、そんなように感じられた。自分の他には初老の男性と彼の奥さんであろうか、四十を少し超えたであろう女性が静かにお酒を飲んでいた。
特に会話をしているようにも見えなかったが、二人の間に漂う空気は一種独特の雰囲気を醸し出していて二人が特別な関係である事が傍で見ても判った。
「会社は近いんですか?」
「ええ、まあ。でもここは初めて来たけど落ち着いてて中々良い店ですね」
「本当に?嬉しいな。実は母が始めたお店を私が譲り受けたんですよ」
そう言われたママはとても嬉しそうに笑った。
お世辞でも何でも無く私はそう思った。少しレトロな雰囲気と年季の入ったカウンター、そして飲み屋ならではの独特の匂いがとても良くマッチしていた。
「でもね、ママさん。今日の契約を取るのって時間が掛かったんですよ、それこそ最初は門前払い、そこを熱心に通ってやっと担当者に会って・・」
私は今日の成果を誰かに言いたくて仕方が無かった。勿論こんな話は会社ですれば良いのは判っていたが、社内で自慢気に話すのも嫌だったし同期から妬まれるのも心配だった。
「じゃあ今日はとても気分が良い一日だったんですね」
「ですね、やっぱり男は仕事ですから、仕事が出来なければ男として一人前じゃないと思うんですよ」
私は普段会社の上司から言われている事をそのまま自分の言葉のように口にした。
通常新入社員は入社して五年は会社に対して利益を還元できないと言われていたが、私は今日の契約でそれよりも早く会社に対し利益を還元出来たと自負していた。
「そんな一人前じゃないだなんて・・皆普通に働いているだけで良いじゃないですか」
「いや、普通じゃ駄目ですよ、やっぱり男はバリバリ仕事しないとね。じゃないと彼女だって出来ないし、現実問題それこそ結婚だって出来ないですよ、最近の女性は理想が高いから。ははは」
「まあ・・そうなのかな?」
それを聞いたママはどう言って良いか判らない表情を浮かべたが、私はそれに気付かずに一人で如何に男の仕事が大変か、そしてどれだけ大事であるかを有頂天になって話した。
流石に慣れたものなのかママさんは私の話を嫌な顔もせずニコニコとしながら聞いていた。
私はそれがとても心地良く更に話を続けた。
色々と話すうちにママさんはやはり自分より少し年上で、以前は普通に会社に勤めていたがお母さんが病気で亡くなったのをきっかけに仕事を辞めこの店を引き継いだ事が判った。
「初めて会ったのにこんな事を聞くのは失礼かもしれないけどママさんは結婚してるの?」
「ええ?いきなりそんな事を聞くの?残念ながら独身です」
「良かった!初めて来ていきなり結婚してたらこれから通う気が失せちゃうよ、じゃあ恋人は?それだけ綺麗なんだから居るでしょ?どんな人なの、彼氏って」
酔いが回っていた私は尚もしつこくそう尋ねた。しかし酔ってはいたがママが綺麗なのは本当だった。
「恋人はここに来てくれるお客さん全員よ」
「参ったなあ、上手い切り返しだ、ははは」
そんな話で盛り上がっているとテーブル席で飲んでいた二人が店を後にした。
「有難うございました、お気を付けて」
帰る二人を外まで見送ると店はママと私だけになった。
「ねえ、ママさん。今帰った夫婦って結構歳が離れているね、でも仲良く飲んでいてなんか良い感じだよね」
「ああ、種村さんと中崎さんの事?あの二人は夫婦じゃないわ」
「え、そうなの?じゃあ不倫?」
「ふふふ、お客さんって面白いのね、今の二人はれっきとした恋人同士よ」
そう聞かされた私はとても驚いた。
「恋人同士?あの年齢で?」
確かに世間一般で言えば恋人同士という言葉は似合わなかった。
「まあ他のお客さんの事をあれこれ言うのはいけない事だけど。種村さんはね、十年前に奥様を病気で亡くされてそれからずっとお一人なの。そして中崎さんは種村さんの会社で一緒に働いていた元部下」
「へえ、じゃあその時から関係が?」
「ふふふ、お客さんって本当に面白い人ね」
「それってどういう意味?」
私は少し小馬鹿にされたような気持ちになった。
「あ、ごめんなさい。確かに中崎さんが種村さんにその当時から好意があったのは確かみたい、でもね、種村さんは奥様が居たから決してその気持ちを受け入れた事はないのよ、以前に中崎さんが一人で酔い潰れた時にそう言ってた。ただ種村さんにとって中崎さんは一人の人間として、そして部下として大事な存在なのは確かだったようね」
「真面目なんだな、普通だったら一度くらい間違いがあっても不思議じゃないけど」
「お客さんだったら受け入れちゃうの?その状況だったら」
「そりゃ・・判らないけど、女の方から好意を寄せられたら断れないでしょ?男だったら。俺の回りもそうやって結構不倫して楽しんでいるのも居るし」
「不倫ね、不倫て人の倫(みち)(な)不らず、って意味なのよね、つまり人としてやってはいけない事。そういう意味から言ったらあの二人も不倫になるのかもしれないけど」
「え、そういう意味なの?俺はてっきり結婚してる人が奥さんや旦那さん以外の人とエッチする事だと思ってた、時代劇でいう不義密通と同じ意味かと」
私は初めて不倫の言葉の意味を知った。
「私が思うに不倫てさ、ある意味仕方が無い事だと思うんだ、だってそうでしょ?たまたま出会った順番が違っていたり、好きになった相手が結婚していたり」
「だからそれが不倫でしょ?」
「まあ、それはそうなんだけど・・でもね、結婚していても他の人を好きになるのは仕方がないと思う、人の気持ちって止められないから。でもそれを行動に移すかどうかが大きく違うと思うのよね」
「つまり?どういう事?」
私はママが言っている言葉の意味が判らなかった。
「上手く言えないけど精神的不倫って言うのかな、相手が異性だから世間からは認められないけど相手の事を人間として好き、人生の後輩として心配する、みたいな。そういう気持ちのやりとりなら良いと思う、でも今の不倫は直ぐに深い関係になるでしょ?それこそ動物チックに、そういのはパートナーに対する不貞行為で許されない事だと思うの」
「う~ん、ママの言う事も判るような、判らないような・・・」
「ふふ、ごめんなさい上手く説明出来なくて」
ママは自分でも少し熱くなり過ぎたと思ったようであった。
「でもね、何の因果か種村さんの奥様が亡くなってしまって、でも種村さんは未だに奥様の事を想っているから。ううん、奥さんに対して申し訳無いって気持ちなのかな?中崎さんの気持ちは受け入れられない、だからと言って中崎さんも他の人を好きになれない、なのでたまに会って一緒に時を過ごす」
「益々持って判らない!そんな中途半端な関係で良いの?好きなら好きで一緒になれば良いのに」
「う~ん、良いとか悪いとかじゃなくて仕方が無い、そして今の二人にはその関係が一番良いんじゃないかしら。好きな相手と会いたい時に会う、その方が自然で良い気がするわ。結婚という形や世間の常識に捉われてないというか、それが人間本来の在り方のような気がするな」
私はその話を聞いてもまるで意味が判らなかった。
そして申し訳無い言い方であるが、こういう場末の飲み屋に来るようなお客や、そこで働いている水商売のママはやはり普通の人と常識が違うと感じた。
それから私は話題を変え適当な時間迄飲むとその店を後にした。