とある学校の一室。

不気味なほど美しく存在を主張している満月と控え目ながらも決して脇役ではない星が瞬く夜空。

壁一面に張られたガラス窓の向こうに浮かび上がったのは二人の人影。

一人はデスクの前に直立不動で立ち、もう一人は上質そうな革張りの一人掛けソファに座り足を組んで夜空を眺め微笑む女。

優しく慈愛に満ちた笑顔のはずなのになぜか凍りつく。

その顔を見た者は一瞬で虜にされ、しかしうかつに近づくことさえ憚られるような秀麗で完璧な笑み。

彼女の後ろに控える男はそんな彼女を目にしても、顔色一つ、表情一つ変えずに淡々と、まるでロボットのように冷淡に告げる。

「今年も時期が来ました」

「…」

「これが資料です」

デスクの上に置かれているのは膨大な資料。

この学校に在籍するすべての生徒の個人情報。

彼女はそれにざっと目を通し、無言で一人の生徒のファイルを選んだ。

その生徒のファイルには

『新倉あずは』

と書かれた女子生徒が写っていた。