そしてこの呼び方。


あの人が、来たの───?

まだ最後の時間までは結構あるんだけど見つかっちゃったのかな。



緊張や焦りや恐怖やらでごちゃごちゃになった頭をリセットするように一度大きな息を吐く。


”大丈夫。私は逃げない”


心で何度もそう唱えて。


ゆっくりだけどぎこちなくだけど

私は足を動かして後ろを振り返った。



「……っ!?」

・・・
あの人じゃ、ない…?!



私は忘れてた。私を『ゆぅ』と呼ぶ人はもう一人いた事を。
 

「廉くん…。」


そこに立っていたのは廉くんだった。



後ろに3人のガラの悪そうな人を連れた廉くんは朝とは別人のようだった。



「やっほ〜♪

んじゃ、行こっか♪…連れてけ。」


いきなり低い声を出した廉くんに従うように私の周りに集まってきた3人。


「な、何…?!やめ…っ…がはっ…!」


抵抗しようとした声を遮るように私のお腹に痛みが走る。


あぁ、殴られたんだ、と理解するのはとても速かった。

   ・・・
ただ、あの時と重なってしまって。


すぐに意識が飛んでしまいそうになる。



霞んでいく視界の前で聞こえ、見えたのは男のゲスい笑い顔。


「ごめんな、でも…大人しくしてろよ」

意識を手放す寸前思ったことは

謝るなら最初からしないでよ、ってコトと

庵とまだ仲直りしてないのになぁ、ってコト。



そして今度こそ私はゆっくりと意識を飛ばしていった。