二人が向かった先は

お寺の境内

お坊さんが二人を待っていた


はるか『この度はご迷惑をお掛けして
    誠に申し訳ありませんでした』

はるかと潤平が
お坊さんに深々と頭を下げる

お坊さん『お子さん、疲れて寝てはりますわ
     どうぞお入りください』


橘・潤平『失礼します』

こたつのある部屋に二人を案内するお坊さん

そこにはこたつの中で
気持ちよさそうに寝ている悠人の姿

そんな悠人を見て涙ぐみながら
安堵の表情をするはるか


お坊さん『お子さん
     友達からイジメられたことを
     知られるのをえらく嫌がってましたわ

     家族を心配させたくないっていう
     子供ながらの思いなんでしょうね…

     なんや、パパを探しに来たゆうてはりましたよ』


お坊さんの言葉に
口に手を当てて涙を流すはるか


――――――――――

学校の教室


タクミ『なーなー洋介
    潤平休みなの?
    アイツがこの時間にいないなんて珍しくね?』

授業を滅多に休むことのない潤平が
まだ来ていないことを不思議に思うタクミ


洋介『さーな、風邪でもひいたんじゃね?』

洋介は事情を知っていたが
しらを切ってそう言った


教頭が教室に入る

教頭『えー今日は諸事情により
   橘先生がお休みですので
   私が代わりに授業します』


教頭の言葉に
潤平もはるかも休んでいることを
夏美が不可解に思う

――――――――

帰り道


すっかり日が落ち
暗くなってしまった

眠る悠人をおんぶして歩く潤平

はるか『…今日は一緒に探してくれてありがとう
    望月くんまで授業出れなくなってごめんね』

潤平『全然気にしないでください
   俺が勝手にしたことなんで』


はるか『…ありがとう』


橘家に着く


はるか『望月くん…家に上がってって』

思ってもいなかった
はるかの言葉に、驚く潤平

――――――――


ガチャ

玄関の扉を開けると
義父と義母が心配そうに駆け寄ってくる


義母『悠人!』


名前を呼ぶが
悠人が寝ていることに気付き
慌てて口に手を覆う義母

はるか『悠人、疲れて寝ちゃったみたいで…

    こちら、望月潤平くん
    悠人を一緒に探してくれてたんです』


潤平『こんばんわ』

悠人をおんぶしている潤平が
義父と義母に向かって会釈する


義母『…この度はご迷惑おかけしてすみませんでした』

義父と義母が頭を下げる


義母『さ、どうぞお上がりください
   悠人を寝室に…こちらです』

潤平『あ…はい、失礼します』


靴を脱ぐ潤平

寝室を案内する義母


義父『今、お茶淹れるから
   あとで望月くんを連れておいで』

義父がはるかに声をかける


はるかがニ階の寝室に行くと

潤平は寝ている悠人のそばに座って
悠人の寝顔を見ていた


その様子を見たはるかは
覚悟を決めたように真剣な顔をして
潤平に声をかける


はるか『望月くん、ちょっといい?』


その声に振り向く潤平

――――――――――

居間


義父『…はるかさんと潤平くんは?』

お茶を入れながら
リビングに戻ってきた義母に聞く義父


義母『今…和室にいるわ』


義母の言葉に
一瞬、義父の手が止まる


義父『…そうか』


――――――――――

和室


仏壇の前

驚いたまま
その場に立ちすくむ潤平



仏壇には若い男性の遺影

そして

遺影の前には
結婚指輪が置かれていた


仏壇の前に座り
そっと手を合わせるはるか


はるか『私の夫…

    事故で亡くなって
    もうすぐ3年になるの

    …ずっと黙っててごめんね

    教頭先生のご意向で
    生徒たちに混乱を招かないためにも
    海外赴任ってことにしてもらってるの』
 

潤平『悠人はこのこと…』


様子を伺いにきた義母が
廊下でひっそりと二人の話しを聞いている


はるか『悠人が産まれてすぐ亡くなったから
    父親のことは理解してないと思う…
    
    でも
    今日悠人がお寺で見つかったって聞いて

    偶然かもしれないけど
    父親のお墓を探しに行ったのかもしれないって思った』


廊下でその話を聞いていた義母は
声を押し殺して泣いている


潤平『…お線香、上げさせてもらえますか?』


その言葉に
驚いた表情で振り返るはるか


はるか『うん…ありがとう』


仏壇の前に座り
手を合わせる潤平


潤平は手を合わせながら
はるかの夫・雅紀の遺影を見つめる

そこには
雅紀が幸せそうな笑顔で写っていた


――――――――


義父『今日はご協力いただいて
   本当にありがとうございました』

義母『また、いらしてくださいね』


靴を履く潤平に二人がお礼を言う


潤平『はい、ありがとうございます』


はるか『私、駅まで送るね』

そう言って靴を履こうとするはるか
それを止める潤平


潤平『駅までの道わかるから大丈夫だよ先生
   悠人についててあげて下さい
   
   じゃ、また明日学校で』

そう言って、にこっと笑う潤平


はるか『ありがとう、おやすみ』


義父と義母に軽く会釈をして

家を出る潤平


――――――――


帰り道


潤平は一人
複雑な心境で歩いている


まさか

先生の夫が亡くなっていたなんて
思ってもいなかった潤平


最愛の夫を亡くし
母親一人で息子を育てているはるか

辛い時や苦しい時もあるだろう

でも
そんな気持ちは一切表には出さず

母親として、橘の嫁として
そして
教師として強く生きている

はるかのことを考えると
胸を締め付けられる思いがした