旅館


仲居『いらっしゃいませ
さ、こちらへどうぞ』

中へ通されるはるかと潤平

そして
悠人の手をひく潤平

はるか『…結局、悠人までついてきちゃってごめんね』

潤平『なんで謝るの?俺は全然構わないよ
悠人、お兄ちゃんと後で一緒にお風呂入ろうな』

悠人『うん!』

嬉しそうに答える悠人

席に座ると
温かい緑茶と和菓子が出される

そして
館内の説明をする仲居

話を聞いている潤平の姿を見ているはるか

仲居『 女性の方にはこちらの中から
   お好きな色の浴衣を選んでいただけますが
   奥様は何色にされますか?』

…奥様…

その言葉にお茶を飲んでいたはるかが咳き込む

それを見て笑う潤平

仲井『あらあら大丈夫ですか?』

はるか『ケホッケホッ…
    大丈夫ですすいません』

動揺するはるかに潤平が
続けて言う

潤平『はるかさんはこの色が似合うんじゃない?どう?』

潤平の言葉に顔を真っ赤にして
うつむきながら頷くはるか

仲井『では、このお色でご用意いたしますね』

浴衣を持って仲井が立ち去る

その瞬間
笑いをこらえていた潤平が吹き出す

潤平『あはははは、もー先生逆に怪しいよ』

はるか『だ…だって』

潤平『でも、先生って言うのもおかしいか…
   もう先生じゃないんだし』

はるか『…そうだね』

少し寂しそうに笑うはるか

潤平『これからは、はるかさんって呼んでもいい?
   だから、はるかさんも俺のこと下の名前で呼んでよ』

はるか『え…あ、うん』

恥ずかしそうにうなずくはるか

――――――――――

潤平『へー結構いい部屋じゃん!』

はるか『本当~素敵!』

外の景色が一望出来る大きな窓のある部屋
外は真っ白な雪景色

潤平『お母さんが言ってた通り
   雪見温泉最高だろうな』

外の景色を眺めながら言う潤平

潤平『俺、悠人をお風呂連れてくから
   はるかさん一人でゆっくり露天風呂入ってきなよ』

振り向いてはるかに言う潤平

はるか『あ、うんありがとう
    じゃあ甘えちゃおうかな』

嬉しそうなはるか

――――――――――

温泉に入り終わり
部屋で遊んでいる悠人と潤平

パタン…

そこへ部屋に帰って来るはるか

はるか『潤平くん、ありがとう
露天風呂すごい良かった!』

浴衣を着て髪を束ねているはるかの姿に
目を奪われる潤平

悠人『ママきれいー』

はるか『え!本当?』

潤平『うん…すっごいキレイ』

照れながらも嬉しそうなはるか

はるか『お、お茶でも入れようか』

座っていた潤平の前を通り過ぎるはるか

その瞬間
潤平が突然倒れこむ

そんな潤平を見てびっくりするはるか

潤平『やべー!はるかさんめっちゃいい香り…
   これは反則だよ…』

はるか『え!!!ご、ごめ ん』

悠人『やべーやべー!』

悠人が潤平の言葉を真似して
潤平のお腹の上に倒れこむ
じゃれ合う二人

それを見て笑うはるか

――――――――――

潤平『あー美味しかった
お腹いっぱい!』

お腹をさすりながら言う潤平

はるか『うん、美味しかった
    ね、悠人』

悠人『うん…』

目をこすり少し眠そうな悠人

潤平『悠人、眠い?』

はるか『うん、そうかも』

潤平『これ、さげてもらおうか?
   悠人、寝かせてあげよ』

はるか『うん、ごめんゆっくり出来なくて…』

潤平『全然いいよ、後で一緒に晩酌しよう』

そう言ってニコッと微笑む潤平

はるか『うん』

――――――――――

すやすやと眠る悠人

悠人を寝かしつけるはるかに
手招きをする潤平

潤平『はるかさん、また雪降ってきたよ
   こっちで飲もう』

はるか『うん』

椅子に座り雪景色を見ながら
ビールを飲む二人

はるか『やっぱり悠人がいるとゆっくり出来なかったよね…』

そう言うはるかの手を優しく握る潤平

潤平『気にしないで
   俺は先生と一緒にいられるだけで十分だよ
   お母さんに感謝しないとね…』

はるか『…うん』

潤平『それにしても
   はるかさんのお母さんて面白い人だね』

はるか『え?そう?
    お母さんは昔からドジで破天荒な人なんだ

    …お父さんは怖かったでしょ?』

潤平『ちょっとね
   でもうちの親父も相当怖いからな~
   それで免疫ついたのかも』

そう言って笑う潤 平

潤平『でも、理解のある人で良かった…
   お前みたいな若僧が何言ってんだ!
   って殴られたらどうしようって、ちょっと思ってた』

潤平の言葉に笑うはるか

潤平『はるかさんって旧姓の名前
   桜井って言うんだね
   今日初めて知ったよ』

はるか『そう、春の桜の季節に産まれたからだって…
    単純な名前でしょ』

笑いながら言うはるか

潤平『桜井はるか…良い名前だね』

はるかを見て言う潤平

そんな潤平の瞳に
吸い込まれそうになるはるか

ドキドキと鼓動が高鳴る


はるか『あ…もう一本飲む?取ってくるね』

冷蔵庫を開けて
缶ビールを2本取り出すはるか

冷静を装わないと
潤平への気持ちが溢れてしまいそうだった

外の雪を見る潤平の後ろ姿に
目を奪われるはるか

その瞬間
布団につまずき
転んでしまう

はるか『きゃっ!』

その声に驚いて振り向く潤平

寝ている悠人の方を見て
手で口を押さえるはるか

手に持っていた缶ビールが
潤平の足元に転がる

潤平『大丈夫?』

転がったの缶ビールを拾い
はるかの元へ行く潤平

はるか『ご、ごめん…つまづいちゃった』

恥ずかしそうなはるかに
潤平が笑う

潤平『はるかさんのドジなところは
   お母さん譲りなんだね』

笑いながらはるかの手をひき
立ち上がる潤平

そして
そのままはるかを抱き締める

潤平『…今日お父さんに言ったこと本当だから』

はるか『…うん』

はるかを見つめる潤平

そっと唇を寄せる

はるかの気持ちを確かめるような短いキス


抵抗をしないはるかにもう一度

今度は二人の愛を確かめるような長いキス

唇を離し
はるかに聞く潤平

潤平『いいの…?
   俺、もう止められないよ』

その言葉に
小さく頷くはるか


布団に倒れ混む二人

外では雪がしんしんと降っている

――――――――――

次の日 朝


はるかが露天風呂に浸かっている

その目の前には一面の雪景色

昨日の夜のことを思い出して
一人で照れてしまうはるか

その顔を隠すように
お湯に顔をうずめる


部屋では
潤平と悠人がまだ寝ている

部屋にはるかが戻ると
目を覚ます潤平

潤平『お風呂、行ってたんだ…』

はるか『ごめん、起こしちゃった?』

潤平が体を起こす

潤平『ううん、俺も入って来ようかな…』

はるか『うん、朝の露天風呂もすごくよかったよ』

荷物をカバンに入れ
帰る身支度をするはるか


はるか『潤平くん…もう、帰るんだね』

潤平に背を向けたまま
寂しそうな声で言うはるか


潤平『…帰ってほしくない?』

はるか『…うん』

素直に答えるはるかの言葉に微笑む潤平

そして
後ろからはるかを抱き締める
驚いて手を止めるはるか

潤平『…俺たち、一緒に暮らさない?』

はるか『え?』

潤平『だって、遠いじゃん
   俺、はるかさんに毎日会えないの嫌だし』

はるか『でも…』

潤平『贅沢な暮らしは出来ないかもしれないけど
   俺もっと仕事頑張って
   はるかさんと悠人のこと支えるから
   
   …ずっとそばにいてほしい』