― 半年前 ―


学校


職員室に入ろうと
扉を開けようとする洋介

偶然、扉の隙間から
教頭とはるかの話しを聞いてしまう

教頭『生徒たちから変に詮索されないためにも
   
   橘先生のご主人は
   海外に出張していることにしておきましょう』

はるか『はい…お願いします』

教頭『橘先生は
   何も心配することはありませんからね』

はるかにそう言って
職員室を出る教頭

その時

扉の外で立っていた洋介に気付く

――――――――――


タクミ『え…だって
    先生の旦那さんは海外にいるって
    俺、洋介から聞いたんだよ?』

洋介の家で
はるかの旦那の話しになった時のことを
思い出すタクミ

洋介『ごめん…
   あの時、教頭に固く口止めされてたんだ』

タクミ『なんだよ…そういうことかよ…』


洋介『…うちの従兄弟が
   先生の息子と同じ保育園に通わせててさ…

   先生には悪いけど
   教頭の話しが気になって
   その従兄弟に聞いたんだ…

   橘先生の旦那さん
   三年前、海外赴任中に
   事故に巻き込まれて亡くなったって

   息子のためにもクラスの子供達には
   父親の事は黙っておいてほしいって

   親御さん達に頭下げてお願いしたらしい』


その話を聞いて
うつむくタクミと夏美


タクミ『潤平、旦那さんのこと知ってたのかな…』

洋介『…たぶんな』

タクミの言葉に頷く洋介


洋介『牧田、お前の言い分もわかるけど
   橘先生の気持ちもわかってやれよ

   少なくともお前は
   先生に感謝するべきことあるだろ』


以前
母親に暴力を受けていた時
はるかが助けてくれたことや

合宿の時
何かあったら相談してね、と
言ってくれたことを

思い出す夏美

――――――――――


駅に向かって走るはるか

潤平『…先生待って!』


追いかけて来た潤平が
はるかの手を掴む

その手を振り払おうとするはるか

グッ

潤平が力強くはるかの手を握る


はるか『…離して』

振り向かずに言うはるか

潤平『離さない』


はるか『牧田さんの言う通りよ
    私は教師として、自分の身もわきまえずに…』

潤平『先生、こっち向いて
   ちゃんと話をしよう』

潤平の言葉に

振り向くはるか
その目には涙が溢れている

はるかの涙を見て潤平は

一瞬、握っていた手を緩める

その瞬間

はるかは潤平の手を振り払い
その場を走って立ち去る

そんなはるかを
追いかけることが出来ずに

その場に立ち尽くす潤平

――――――――――

橘家


バタン

玄関が閉まる音に気付く
リビングにいる義父と義母

はるかは何も言わず
寝室へ向かう

何かあったのかと
不思議な様子で
顔を見合わせる義父と義母


寝室

はるかがベッドに顔をうずめて
泣き崩れている

その時

マナーモードの携帯が鳴る

潤平からだ

しかし

電話に気付かないはるか