こっち向け。
こっち向け。
こっち向け。
ふと立ち止まりタチバナが振り向く。
慌てて空を仰いでみる。
声が聞こえてしまったのか、
念が通じたのか、
なぜかタチバナはこっちを向いた。
「ヒロセ。」
大好きなタチバナの声が私を呼ぶ。
「お前いま何考えてた?」
少し前を歩いていたのに
こっちに向かって歩いてくる。
そして私に聞いたのだ。
何を考えていたかなんて。
タチバナ、あなたにだけは言えないのだ。
「え?うーんと。空が青いのは何でかなーとか。」
白々しい作り話。
何せわたしは念じていたのだから。
「はっ。だから上見てたのか。」
タチバナは呆れたようにくしゃっと笑う。
わたしの大好きな顔だ。
ただでさえ優しい目が
もっともっと優しくなって
こっちを向いて笑ってほしいと
そう思わせるんだ。
「俺はさ、ヒロセと今日話してねえなーって思ってた。」
え。
「そしたらさ、お前後ろにいるんだもん。驚いた。」
え。
「だからさ、話せてよかったわ今日。」
そう言ってもう一度笑って見せると、
タチバナは歩き出す。
私はただ立ち尽くす。
こっちを向けと念を送っていた時にタチバナは。
「ねえ!」
タチバナが振り向く。
念ではなく、私の声で。
「一緒に帰ろう。」
私の声でこっちを向いた彼は
またもう一度あの笑顔で笑った。
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