彼氏がちょっとした芸能人。
とかってドラマでありがち。
そんな事あるわけないじゃん。
と思っていたけれど、、、
「あ〜ジズまた出てる〜」
テレビを見ながら独り言を言う私の彼氏はジズというバンドグループにいる。
「はあ〜〜〜」
彼らのバンドは最近知名度があがり忙しそうだ。
「今月まだ一回も会ってないとかやば…」
12月も半ば。
予定は未定。
会う約束をしても、
向こうが忙しくてキャンセル続き。
仕方ないよ!なんて言ってるけど
実際だいぶ寂しい。
言えないけど。
でもこの前の時に、
埋め合わせは土曜日にする
って言ってくれたからいいの!
久しぶりだな〜。
なに着ようかな!
そんなことを考えてると楽しみになってきて気分が戻る。
「そうだクッキーでも焼いてあげよう。」
材料を買い帰宅する。
「気合い入れてラッピングまで色々買っちゃった…バレンタインみたい笑」
いつもの独り言も彼に会えると思うと
楽しげな声に自然と変わる。
あとは焼き上がりを待つだけ〜!
実は気合いを入れて…服まで新調してしまった。
ちょっとだけ、着てみよう〜〜ウキウキ
新しく買った服を着て鏡の前に立つ。
「ちょっと可愛すぎかな。でも久しぶりだし可愛いって言ってほしいな〜」
独りファッションショーをしていると携帯が鳴った。
少しだけ心臓が大袈裟な心拍を刻んだ気がした。
「あ、もしもし?」
「もしもしー?お仕事お疲れさまー」
「ありがとうー今から帰るとこやねんけどー」
「そうなんだー遅いんだね。」
「まあな。ほいでさ…明日やねんけど…」
心臓がズキズキ痛い。
聞き覚えのあるフレーズに体中が反応している。
「ほんまにごめん…マネージャーに土曜だけは空けて欲しいって言ってたんやけど…他のメンバーの仕事と折り合いつけなあかんくて…音入れできるん明日しかなくて…ほんまごめん…」
「……………。」
「…ごめんほんま。」
胸がズキズキする。
予想できていたのに。
身構えていたのに。
何の防御にもならなかった。
いとも簡単に私の胸は痛みを感じて。
体中が、傷つかないようにと
警報を鳴らしていたのに。
何か言わなきゃ。
「…会いたい。」
「…ごめん。」
困らせるだけだ。
「やだ…会いたい…」
「ほんまにごめん…」
「音入れ、何時に終わる?それから会えないかな…?」
「ごめん…音入れの後取材入ってて…音入れ何時に終わるか分からんから具体的な時間は決まってないけど…」
「そか…」
「ほんまごめん…」
ピーピーピー。
オーブンが鳴る。
ああ、無駄になっちゃった。
「私こそごめん!わがまま言っちゃった!」
「いや…」
「忙しいのは仕方ないね!また落ち着いたら連絡して!じゃあ切るね!」
「え、ちょ…」
まくしたてるように電話を切る。
肺に残った空気を吐き出すのと同時に涙が溢れた。
「…っ」
会いたかった。
毎日デートしている
友達を羨んでしまう。
素直に応援できない自分がいやになる。
私には、芸能人の彼女は
向いてないのかもしれない。
焼きあがったクッキーを
ゴミ箱に投げ捨てながら、
そんなことを考えた。
彼女と会えない日々が続く。
ほんまに悪いと思ってる。
我慢させとるのも振り回しとるのも
全部おれ。
やからせめて、
少しでも会えたらと
今、彼女の家に向かている。
あいつ勝手に電話切りよったからな。
なりゆきサプライズ。
もう夜中の2時をまわっとる。
寝てるやろな。
合鍵をまわし玄関に入る。
久しぶりの匂いにほっとする。
やっぱ寝てるか。真っ暗や。
玄関だけ電気をつけ、
薄明かりの中部屋へ入る。
薄暗い部屋に彼女の寝顔が浮かぶ。
そっと近づこうとした時、
ふと目にとまるものがあった。
「クッキー……」
特別な日には必ずクッキーをくれた。
記念日のクッキー。
誕生日のクッキー。
クッキーを作る姿が浮かび、胸が苦しくなる。
ほんまごめんな。
彼女の肩に布団をかけて頭を撫でる。
「ごめんな。時間できたら行きたいとこ全部行こな。」
そっと立ち上がり、部屋を出る。
冷たい風が彼女の匂いを素早く奪っていった。
彼の夢を見た。
ごめんな。時間できたら行けるとこ全部行こな。
そう言って私の頭を撫でて…
そこで目が覚めた。
「夢…か」
あれ。
「匂い…」
彼の匂いがした気がした。
「気のせいか」
トイレへ行こうと立ち上がり目に入ったのはテーブルの上の小さなメモ。
読みながらまた泣いた。
「夢じゃなかった…夢じゃなかった…」
「クッキーありがとう。全部もらってくな。」
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