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「お帰りなさい、菖蒲さん」

ウキウキしながら家の門を開けると、お祖母様が鯉に餌をやっていた。


「お祖母様。ただいま帰りました」


白くなった髪をきつくまとめ、藤色の着物を綺麗に着こなしている。


「あらあらまた日焼けが。元気で何よりですね」

ふわりと笑うお祖母様。


お祖母様は私や姉様たちにとっても良き理解者で、大好きな存在だ。


「お祖母様、姉様たちはまだ戻られないのですか?」
菊乃姉様はフランス留学に行ってしまい、椿姉様は咲さんの家で暮らしているという。


もっとも、椿姉様の所在を知っているのは間宮家では私だけだけれど。


「しばらくは戻らないでしょうね。桐之介も時雨さんも菊乃さんを許さないでしょうし……何より椿さんが両親を許さないでしょう」


それはそう。

軟禁、ほぼ監禁状態にされた椿姉様がお母様たちをそう簡単に許すはずもない。


私は…悔やむだけで、助けられなかったけど。


ただただ凜さんを泣いてすがることしか。


「ほらほら菖蒲さん。そんな顔をするものではありません。菊乃さんや椿さんの願いは、貴女が笑顔でいることですよ」


「私は、恨まれても仕方がない存在です…恨んではいらっしゃらないのでしょうか」


「何故です?口を慎みなさい、お姉様方を見くびりすぎですよ。椿さんも菖蒲さんに危害が及ばないことを分かって出て行きました。菊乃さんも最後まで貴女を気にかけていました」 


「申し訳ありません…ありがとうございます、お祖母様。私、着替えて来ます」

一礼して、逃げるように庭を横切った。


どうしよう、泣きそう。