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「あ、おはよ」

「…何で菖蒲っちのが早く来てんの」


待ち合わせ場所の時計台に姿を現すなり複雑な表情で言った青葉。


「何で…とは」

「普通さ、女子の方が遅れるもんじゃん」 


そうなのか。初耳だ。


でも、

「青葉も遅れた訳じゃないじゃん」


そう、まだ15分前。

もっとも私は30分前に来ていたのだけど。


「そうだけどさー!菖蒲っち待たせたら俺カッコ悪いじゃん!」

機嫌、損ねちゃったのかな。


感情を隠すのは得意だが、男女で出かける時の常識を知らなかったため戸惑う。

こんな時はどうすれば。

とりあえず…

「…ごめん。でも青葉はカッコ悪くないよ」


「え?」


「青葉はいつでもカッコいいし、私はそう思ってる」

正直な気持ちを伝えるしかない。


「~っ、菖蒲っちー…」


困らせた分際で図々しいけど、少し思う所があった。

「菖蒲でいいよ」


「はぁ、もう行こ」


無視された気がするんだけど。


先に歩きだした青葉。


「え、あの、青葉ぁ…」


「何してんの。行くよ菖蒲」


肩越しに振り返った青葉の顔がほんのり赤いのか少し不思議だが、


「うんっ」


せめて威勢良く返事をして後について行く。