え。
「ユキちゃん、帰って来るの?!」
私は驚いてお母さんの方を見た。
お母さんは笑って頷いた。
ユキちゃん。
その名前を心の中で繰り返すたびに、
胸がしめつけられる。
懐かしい名前だ。
町に帰ってくるってことは、
もう大丈夫なんだよね。
何年ぶりだろう、早く会いたい。
……会って、
何もしてあげられなくてごめんねって
辛かったでしょうって
抱きしめてあげたい。
そのあと
たくさん話をしよう。
ユキちゃんには聞きたいことが
たくさんあるし
私にも、話したいことが山ほどある。
そう考えただけでも、私は胸が熱くなった。
私のお母さんの実家は、今住んでる町から
かなり離れた山奥の小さな田舎町で、
ユキちゃんがいなくなるまでは
長い休日になるたびに おばあちゃんと
ユキちゃんに会うために、何泊かのお泊まりに行っていた。
中学生になってからは
忙しかったのもあるし、
ユキちゃんのことを思い出したくなかったこともあって
町に帰るのは四年ぶりということになる。
昔はよく二人で山に行って虫採りしたっけな。
それで一緒に迷って
おばあちゃんにすごく怒られた思い出がある。
本当に楽しみ。
私のこと覚えててくれてるかな。
会うこと、知ってるのかな。
久し振りに会ったら、何て言ってくれるん
だろう。
――だけど、
もし これから起きることが分かっていたら
こんなに のんびりと電車に揺られてる
場合じゃなかったのかもしれない。