朝だというのに電車の中にはほとんど
客はおらず、
先頭車両には私一人だけだった。
窓際に頬杖をついて
流れる景色に目をやりながら、
お母さんとの会話を思い出していた。
「ミライ、忘れ物はない?」
家を出る少し前、
お母さんが私の部屋まで来てそう言った。
「そんなに心配ならお母さんも
来ればいいのに。おばあちゃん寂しがるよ」
「大事な仕事が入ったから休めないのよ。
お父さんも、もう会社行ったから、
何かあったら仕事場に電話かけなさいね」
「分かってるよ。というか何も無いと
思うから」
私はお母さんの方を見ずに答え、
リュックに荷物を詰め込んだ。
「……あ、そういえば」
ふいに お母さんは何かを思い出したように
私の前に腰を下ろした。
「ユキちゃん、帰ってくるみたいよ。
あの町に」