「……ねえリルガくん」


「どうしたの? 怖いなら抱いてあげるよ? 」


「それは結構なんだけど……ジョニーって馬鹿だけどすごいんだね。何今の走り幅跳びみたいなの」




私の質問に、もう戦う必要の無くなったリルガくんは半ば呆れた様子で笑った。




「鬼はこの世界の中でも一、二を争う強さを誇る種族だけど、あいつは君の世界でも多分有名な、酒呑童子っていう鬼の末裔だからね。
俺らなんて足元にも及ばないよ」



へえ……。

そんなジョニーのほっぺを思いきりひっぱたいた私とは一体……。



「しかもそのジョニーをあっさり大人しくさせて牢屋にぶち込んだマーモンさんとは一体……」

「……ま、上には上がいるってことさ」




それは少しでも早く逃げた方がよさそうだな。


私は広間の真ん中で戦いを繰り広げる二人の
男の子たちの姿を目で追った。

皆はジョニーに加勢しないのかと私が聞くと、彼は自分の喧嘩を邪魔されると機嫌をそこねるらしく、巻き添えを喰らって八つ裂きに
されたくないからとリルガくんは答えた。




ジョニーは剣を振り回しながら床を蹴って飛躍し、リックくん目がけて剣を振り下ろす。

それをリックくんは自分の持つ剣で受け止めて、刀身を滑らせジョニーの剣を払いのけ、そのまま斜め上に斬り返そうとした。

そんな彼の表情に、昔の仲間を斬ることへの
躊躇いの色は一切感じられない。



そのとき、ジョニーが小さい声で何か言った。

リックくんもそれに反応したのか言い返している。

ちょうど外は吹雪なのだろうか。風の音が建物の中に響いて二人の声は掻き消され、私たちがいる距離からはよく聞き取れない。


しばらくの間剣を交える二人だったが、不意にリックくんが私の方を見た。

――すぐに逸らされたが、そのとき彼は初めて取り乱した。


その一瞬の気の緩みが仇となってできた隙を
ジョニーは逃がさず、少しの躊躇いもなく
リックくんの体に剣を突き刺したのだった。

ごふっ。という声と共に吐血し、リックくんはその場に仰向けに倒れ込んだ。


ジョニーは握っていた剣から手を放し、鷹揚とした様子で私たちのところへ戻って来た。



「……死んだの? 彼」


イズミくんにも同じようなことを聞いた気が
する。

ジョニーは首を横に振った。

戦いに勝ったことを喜んだり安堵したりする様子は無く、やってしまったと焦るような表情だ。


「悪い皆……リックを気絶させちまった……! 」


彼の言葉に、皆の顔から血の気が引いていくのが分かった。


「何してんのよ馬鹿!! もう出口を探してる場合じゃなくなったじゃない!! 」

「お前マジで加減ってもんをしろよ馬鹿が!!
この単細胞!! 」


ジュリーちゃんとミレアくんが怒鳴っている横で、リルガくんとマリーちゃんはやれやれと言った風に笑っていた。



「ごめんって!ごめっ痛っ……ごめんなさいいいいいい!!!! 」


ミレアくんにバットで殴られるジョニーを無視し、私は気を失ったまま動かないリックくんを見た。


「身内ネタで盛り上がってるところ申しわけないんだけど、リックくんが気絶したら何か
まずいの? 」

「超まずいわよ。牛乳の中にブロッコリーを
入れて飲んだ時くらいまずいわ」



それは……まずい以前に吐きそうだ。

というかジュリーちゃんいつそんな飲み方したの?!



「……リックはなぜか昔から、眠ってる間とか意識が無い時に、たまに別人みたいな性格に
なってしまう病気なの」


「要するに、二重人格ってこと? 」