しかしまだ雑兵に余裕があるのか実験棟に繋がる通路から、次から次へと傷だらけのゾンビたちが姿を現すのだった。


ジュリーちゃんの後ろに回りながら、ちらっとリックくんの方を見てみると、彼の表情にまだ焦りの色は無く、自分の目の前で繰り広げられている乱戦を楽しげに眺めている。




いくら人間じゃないと言えど、既に死んでるジュリーちゃん以外のメンバーはさすがに疲弊してきているようだった。



「このままじゃキリがねーなー。手っ取り早く全滅させらんねーかなー」


五人の中で唯一、敵の攻撃を避けてばかりいたジョニーが能天気な声でそう言った。



そして何を思い付いたのか逃げ回るのをやめ、わざとゾンビたちに囲まれるような位置に立つと、私の方を見て耳を両手で塞ぐポーズをして見せた。

よく分からないまま、私や皆が耳を塞いだのを確認したジョニーは息を大きく吸い込み、
そして。




何とも形容し難い、耳を劈くような、

大地を震わすような、

まるで獣の咆哮のような雄叫びを上げたのだった。



耳を塞いでいないゾンビたちは皆、泡を吹きばたばたとその場に倒れ伏す。

ジョニーはそれに追い討ちを掛けるように走り出し、右足を勢い良く床の上に振り下ろした。

轟然たる破壊音と共に床がひび割れ、まるで薄い紙を破った時のように真っ二つに裂けていく。
その衝撃で、さっきの咆哮でも倒れなかったゾンビたちを吹き飛ばし、実験棟へ続く入口の天井が大きな音を立てて崩れ落ちた。


このジョニーの行動によって、私たちを取り囲んでいたゾンビたちで立ち上がる者は一人も
いなくなったのだった。




「ふーっ……。入口さえ塞げばゾンビは入って来れねーな!ってことは、あとはお前だけだなーリック! 」


ジョニーはそう言ってケラケラと笑う。

リックくんは笑みを崩すことなく「そうだね」と頷き、ジョニーの前に足を進めていく。



他の四人は暗黙のうちに手出しをしない方が良いと感じたのか、距離が狭くなっていく二人の様子を見守っていた。




「俺の大声で倒れねーとかすげえな!」


「あはっ。きみが大きな声だってことは昔から知ってるからね、耳栓をしてて正解だったよ」


「……やっぱ見逃してはくれねーか。
親友だろ」


「僕に親友がいた覚えは無いね」



淡々としたやり取りが続き、やがて二人は床やその辺に横たわっているゾンビの腹に刺さっていた剣を抜き身構えた。