「あは。何だ、気付いてたのかい」
突然現れたその人は、涙を流しながらそう言った。
その目は澄み渡る青空のような色だった。
涙はそこから、シミ一つ無い真っ白い肌を伝って流れていく。
マーモンの手下だろうか。
黒い軍服のような服を身に纏い、頭にはクラッシュキャップの形状をした、服と同じ色の軍帽を目深にかぶっている。
まるで旧日本軍のような出で立ちだが、年は私たちと近そうに見えた。
服の上からでも細身であることが見て分かる。
声からして男だろうか。
そんな彼は今、何故か大粒の涙を流して泣いている。
私はそれを気味が悪いと同時に、美しく感じたのだった。
「……誰かと思えば、裏切り者のリックかよ」
そう言ったミレアくんの舌打ちが聞こえた。
リックと呼ばれた彼は水色のハンカチを出して涙を拭った後、微笑んで頷いた。
「きみは……ミレアだね。そっちにいるのはリルガ、マリー、ジュリー、それにジョニー。
あははっ。皆元気そうで何よりだよ」
彼の言葉に、四人はにこりとも笑わない。
「えっと……知り合いなの? 」
話に付いて行けてなかった私に、マリーちゃんが教えてくれた。
「あそこにいるイケメンは狼男のリックくん。私たちの仲間……だった人だよ」
「仲間“だった”? 」
「友達が殺されたってのに魔女狩りに賛成して、今は“七大罪”の一人、ベルゼブル様の部下をしてるの。きっと任務でマーモン様の留守を任されてたんだね」
とりあえず私たちの敵ってことは確かだと、
マリーちゃんはいつになく真剣な表情で言った。
好青年っぽいけど、リックくんは狼男なのか……。
何だかイメージと違うな。
「本当は僕もこんなことしたくないんだよ。
友達を傷付けるなんてそんな最低なこと……! 辛くてさっきから涙が止まらなくて……」
リックくんは言いながらまた泣き出してしまった。
「ふん。友達を捨てて自分の地位をとった奴の言う台詞じゃないわね……白々しい」
鼻で笑うジュリーちゃんの言葉に、さっきまで涙を流しながら微笑んでいたリックくんは急に無表情になる。
何だか掴みどころの無い人だ。
「まあそれもそうだね。もともとその人間も含めて、侵入者は皆殺しにする予定だから」