「えへへ。忘れるなんて悲しいな……あっ
包帯巻いてるから分かんないのか」
ゾンビはそう言って、顔に巻いていた包帯を
するするとほどいていく。
その下から現れたのは見覚えのある、
中世的な男の子の顔だった。
「あなたは……サキハラくん?!」
今日の昼間、魔法の国で私を殺そうと
襲ってきたゾンビの男の子だ。
シャンデリアの下敷きになったはずだけど。
……ってことはもう一人は。
「……フィンセントくん?」
私が尋ねると、目元に包帯を巻いたままの彼は頷いて「イエスイース!」と嬉しそうにピースした。
出来ればこの二人には再開したくなかった。
私は一歩後ろに下がって身構えた。
「どうして……二人とも魔法の国で――」
「えへへへ。あの時はボクらも油断してたんや……お陰でご主人様に怒られて、右腕を
もぎ取られたよ」
サキハラくんはそう言って、柵にもたれながら
微笑んだ。
確かに、サキハラくんが着ているツナギの
片方の袖には腕が通っていない。
「酷い……マーモンにやられたの?」
「そうだよ……でもシャンデリアの下敷きになって全身ぐちゃぐちゃになるよりはマシさ。
フィンセントも一緒に怒られて目を潰された
んやで……えへへ」
うっ……。
私のせいでもあるのか。
「それについては、ごめんなさい」
私が頭を下げると、サキハラくんはまた
えへへと笑う。
「自分を殺そうとした相手に謝るなんてきみ、
変な奴だね……えへへ」
「確かに怖かったけど……でも、酷いことした」
「えへへ……ボクらは不死身やで……。
腕の一本や二本、すぐに元通りや。スマイリーは殺処分されたけどね……」
「殺処分?!」
スマイリーって確か、三人の中でいちばん
怪物っぽい見た目だった人だ。
「そんな……何て酷いこと」
「彼はゾンビじゃなくてホムンクルスやから
……えへへ。代替品はいくらでもいるのさ……あっホムンクルスって言葉が分からんかったら自分で調べてね」
「知ってるけど……私のせいで殺されたんだね。それに代替品なんて、そんな軽々しく
言ったら駄目だよ」
「……野菜ちゃんは優しいね、野菜だけに。
ボクらみたいなゾンビや他の実験体たちは、
皆ご主人様と博士のペットみたいなもんやから。言う通りに動けないとお仕置きされるし、
殺される奴もいる」
そう言ったサキハラくんは一瞬、寂しそうな顔をした。
が、すぐに元のわざとらしい微笑みに戻る。
「けど、ボクもフィンセントも、今の暮らしには満足してるよ。生きてた頃の方がよっぽど
地獄だったからね……」
「そーだヨ、ジャパニーズガール!
ボスのマーモン、コワイけどイイヤツ!!
怒らせしなかったらスゲー優しい!イトワロス!」
マーモンが良い奴かどうかは置いといて、
二人とも喋ってみると案外普通の男の子だ。
ちょっと変なだけで。
確かに私も、人間の世界は地獄だと思うけど。
「でも、あなたたちを閉じ込めておくような人に従うことはないと思うよ」
私がそう言うと、二人は少し困ったように
笑ったのだった。