どうしよう。
今一人の悪魔に人間は変態だと認識されてしまった。
私のせいで地球の全人類が変態ということに
なってしまった。
もしかしたらそのせいで、神様(本当にいるかどうかは不明)が「そんな卑猥な種族はこの世にいらねえよ」と人類を滅ぼすことになるかもしれない。
「そんな……人類が滅亡するくらいなら変態は
私一人で充分だよ……」
一人で壮絶な妄想を繰り広げる私にリルガくんはクスッと笑った。
「人類て!冗談だよ、何かに興味を持つってのは良いことだもんな」
「そういうことじゃなくて!!」
そんな爽やかな笑顔で言われると何も言い返せなくなる。
今の場合何か弁解しないとまずいんだけどね。
リルガくんは他の悪魔とは違って何だか
健康的だ。
髪も肌の色も、私が知ってる普通の高校生みたいだし、しかも優しい。
多分、学校でもモテるんだろうな。
そんなことを考えながらリルガくんを見て歩いていると、何を思ったのか彼は歩きながら私の横まで来て、耳元でこう囁いた。
「きみ、俺のこと好き?」
そう言って
リルガくんはにっこりと笑ったのだった。
「ええっ?!……いやいやいや!!何でそうなるの?!
べつに嫌いではないけども!」
リルガくんは私の反応が想定内だったのか、
満足そうにまた微笑んだ。
「あはは、俺はきみのこと好きだよ。
なんか面白いし人間っぽくないし……
良い友達になれそうだ」
「ああ……友達ね。そっちね……
そういうあなたは全然悪魔っぽくないよ。
むしろ天使だよ」
男の子に好きだなんて言われるのは慣れてないから、これから怖いところに行くにも関わらずついつい嬉しくてにやけてしまう。
リルガくんがかっこいいというのもあるな、
イズミくんの方がタイプだけど。
「ちょっとリルガくん~!ミライちゃんに
軽々しく好きとか言わないでよこのチャラ男!」
今まで黙って私の横を歩いていたマリーちゃんがそう言ってリルガくんを睨んだ。
リルガくんは動じることなく、相変わらず
爽やかな笑顔を向けている。
「そんなに怒るなよ、マリーのことも
ちゃんと好きだよ」
「全然嬉しくないからね?」
……思うんだけどこの子、男子に対しては
何でこんなに態度が違うんだろう。
ジュリーちゃんも呆れたように笑っている。
「……お前ら、これから死ぬかもしれないってのによく平気でいられるな……」
そう言ったのは、さっきまでリルガくんの横を歩いていたもう一人の男子生徒だった。
名前はミレアくん。
確か自己紹介のところでも書いていたような
気がするバンパイアだ。
教室では野球帽を被っていたから、最初は
誰か分からなかった。
帽子を脱ぐと短髪で、意外と目が大きい。
バンパイアなのでマリーちゃんと同じように
瞳は赤く、口からは尖った牙が覗いている。
鼻が高くて色白だけど、眉が薄いから
またツバサ先輩とはタイプの違う不良みたいだ。
両耳にもたくさんピアスがついているのが
見える。
今は制服じゃなくて黒いタンクトップを
着ているので背中に彫られた小さな十字架の
タトゥーも丸見えだ。
とにかく、私が彼に感じた第一印象は
アイドルみたいなリルガくんとは対照的に
“怖そう”の一言だった。
「どうしたのよミレア。そういうあんたは
ビビってるの?」
ジュリーちゃんが少し小馬鹿にするような
口調で尋ねると、ミレアくんは
「当たり前だろうが。ゾンビなんか見たくも
ねえよ、あんな恐ろしいもの」
とジュリーちゃんをじろりと睨んだ。
言葉と行動が正反対だな。
「……それってあたしに喧嘩売ってるの?」
「お前は別だ。あのゾンビ特有のきもさが
ねえからな……」
「どうでもいいけど、特有のきもさって何よ」
「ほら、ゾンビってちょっと頭がイってる
奴ばっかだろ。人前でも普通に奇声とか出すし……常識が無くて汚いから思い出しただけで
寒気がする……」
ジュリーちゃんは少し嫌そうな顔をした。
まあそれも当然だと思うけど。
「あの……マーモンって人のお城って、
ゾンビがいるの?」