ジュリーちゃんも頷いて答える。
「そうね。ミラクと三人できたのが最後だったかしら」
店内は賑やかだった。
「ミラクって? 」
「……友達だよ。今はいないけど」
「今はどこにいるの? 」
「魔女狩りで殺されたんだ」
しまった。
このとき私は、間違えて地雷を踏んでしまったような感覚をおぼえた。
実際に地雷を踏んだことはないんだけど。
「……ごめん」
私が謝ると、大丈夫よとジュリーちゃんが
笑う。
「もう終わったことだから」
「でも……! 」
私は不意に二人が――いや、周りにいる
生徒たちが、何か大きくて重い何かを抱えて生きているんだと悟った。
多分ミラクっていう子の他にも、私と同年代の子がたくさん魔女狩りで死んだんだ。
クラスの女子が少なかったのもそのためかも
しれない。
でも、の後。
何て言えばよかったんだろう。
結局マリーちゃんに遮られて、何も言えなかったんだけど。
「いやーごめんね! いきなり暗い話題出しちゃって!」
「本当に! 空気読みなさいよー! 」
二人が私のために無理に笑うので、
私は彼女たちに「無理しなくていいよ」と言った。
すると二人は笑うのをやめて私を見た。
「……ミライって、なんかあたしが知ってる
人間とは違うね」
「そうそう! どう言ったらいいか分かんないけど、生きた人間じゃないって感じ」
生きた人間じゃないって……。
「それって褒めてるの? 」
冗談っぽく聞くと、マリーちゃんは笑って頷いた。
「バンパイアとかゾンビとか、何となくそういうの見るのに慣れてそうだなって! 」
「慣れてるっていうか……ホラーゲームが
好きなだけというか……」
私は膝の上に置いた両手を握り締めた。
「そうなの? 自己紹介の時には言ってなかったのに! 」
「そ、そんなの言えないよ……」
「何で? 」
ホラーゲームはするのも実況プレイを見るのも
好きだけど、それを自己紹介で言うのには、
昔から何となく抵抗があった。
中学の頃から、私の周りの女の子は皆 同じ
アイドルが好きで、アニメとかゲームとか、
または皆があんまり知らないようなバンドが
好きだと、「ヲタク」と馬鹿にされるから。
だから私はそれを恐れて、皆の意見に
無理矢理合わせるようになったんだ。
それ以来、自分のやりたいことを堂々と
言える自信が無くなって、結局自分は本当に
何がやりたいのかさえ分からなくなっていた。
「ふーん。まあ気持ちは分からなくもないわ」
ジュリーちゃんはそう言って苦笑いした。
「あたしも人間だったから分かる。なんか
皆と違う意見を言うと仲間外れにされるよね」
「えー何それ! 好きになるのは自由じゃないの?
私みたいに女の子の血が好きって子はクラスに一人もいないけど、叩かれないよ? 」
ちょうどソフトクリームを舐め終わったマリーちゃんが口を挟む。
「今の魔女狩りみたいなもんよ。人間の血が
混ざった魔法使いは汚れてるし少ないから
処刑されたの。あと、見た目が気持ち悪い
ゾンビも、悪魔たちは毛嫌いしてるでしょ」
酷い話だ。
世界史で習った魔女狩りはカトリックに
歯向かう人とか、あの人もしかして魔女なんじゃない? みたいな噂が立った人が捕まって、
自分が魔女だということを自白するか死ぬまで拷問されるっていう、魔女狩りされる側の人権を完全無視した黒歴史らしいけど、この世界のは違うっぽいな。
本物の悪魔たちが、人間の真似事をしてる
みたいだ。
しばらくの沈黙の後、ジュリーちゃんが立ち上がった。
「さて! そろそろ帰りましょうか。これから
学生寮に戻るんだけど、ミライってマリーと
同じ部屋でしょ」
「そうなの? 」
私が聞くと、マリーちゃんが頷いた。
「うん! なぜか私だけ一人部屋だからね~!」
それってまさか同室の女の子を……いや、
何でもない。