エレベーターを降りると、大広間のような場所に出た。
赤を基調とした花柄のじゅうたんが敷かれた
床と、エメラルドグリーンな壁の薄暗い部屋で、壁と同じ色をした天井から垂れ下がった
シャンデリアは、オレンジ色の光で室内を
妖しく照らしていた。
壁には高そうな絵や動物の剥製がたくさん
飾られている。
部屋の奥には大きなドアがあって、そのドアを開けて中に入ると、赤いじゅうたんの廊下が
続いていた。
「これから校長に会ってもらう。見た目は
ちょっとあれだが、良いひとだぜ」
私の前を歩くつり目くんはこちらを見ずに
そう言った。
「それ駅でマリーちゃんにも言われたけど、
どういう見た目なの? 」
「驚きのあまり腰抜かすかもな!
お前って見た感じ頭悪そうだし! 」
「否定はしないけどよく初対面の相手にそんな失礼なこと言えるね?! 」
頭が良くないのは間違いじゃないから
これ以上の反論はしないでおく。
けどつり目くん、あなたも充分賢そうには見えないよ?!
……結局、校長先生ってどんな人なんだろう。
それにしても長い廊下だ。
けど、天井や壁に飾ってある絵のおかげで
退屈はしないし、話相手もいる。
「ねえつり目くん、途中にドアとか通路があるけど、最上階ってどういう所なの? 」
私の質問に、つり目くんは顔を少しだけ
こちらに向けた。
あ、つり目くんって呼ぶの嫌だったかな。
「お前の世界でいうところの職員室みたいな
場所だ。先生は全員で七十二人いる」
「七十二人?! 」
「変な奴ばっかだぜ。部屋に入るときは必ず
“失礼します”って言わねえとかなり
怒られる時もあるんだ」
そこは人間と同じなんだね、汽車のアナウンスと同じで。
でも職員室にしては豪華すぎるような気がするんだけどな。
外のスチームパンクな雰囲気に対して、
中に入ると一気にアンティーク調になってる。
私の学校もこんな感じだったらいいのにな。
「……で。つり目くんってのは、俺のことか」
つり目くんはそう言って、私を睨んだ。
やっぱり嫌だったか……だって名前知らないし仕方ないよね、謝ろう。
「……ごめん、ガーゴイルくんって呼びにくくて――」
「いやいや!俺ら名前なんて無いからさ。
びっくりしただけだから、謝らなくていいぜ!」
つり目くんはそう言って笑い、再び前を向いた。
よかった、意外と良い人なのかもしれない。
色んな話をしているうちに、私たちはすっかり仲良くなってしまった。
ガーゴイルは魔法使いが石で適当に作った
人形みたいなものだから、人間のことは
何とも思ってないらしい。
あと、入り口にいた猫目くんとは本当に双子の兄弟で、もう何百年も二人で《学園》の門番をしているなんて話もしてもらった。
私も自分がこの世界で迷子になった経緯とか
将来の話をしているうちに、とうとう校長先生の部屋の前に到着してしまった。
「ここが校長室? 」
「ああ。さっき驚いて腰抜かすかもな、なんて
言ったけど、それ取り消すよ。ゾンビを三匹も倒したミライなら大丈夫だぜ」
つり目くんがそう言って笑うので、私もつられて笑ってしまった。
「ありがとう。私ばっかり喋っちゃったね、
つり目くんが意外と良い人でよかった」
つり目くんは、意外とってのは余計だろ!と笑った後ドアの方に向き直った。
「ガーゴイルです。お客様を連れてきて
やったぜ」
その声に反応したかのように、目の前のドアがゆっくりと音を立てて開いたのだった。