翠くんは

不意に私を抱き寄せた。




その瞬間

私の頭の中に今の映像が

鮮明に蘇ってきたんだ。




飛び散る血。

叫び声。

糸のような触手。



その一つ一つが

私の頭の中で、浮かんでは消えてを何度も
繰り返す。





「嫌だ……!やめてよ、何これ気持ち悪い。
頭が痛い!!」





私はピストルをかまえようとしたけれど

今度は右手の指の傷が開き

ピストルを落としてしまう。




それでも続く

フラッシュバックする映像に

私は頭を抱え涙を流した。






「気に入ったかな? 触った相手の、
最も嫌な記憶を呼び覚ますのが僕の特技。
簡単に言えば、心に負った傷を開くのさ。
陰湿だろう? 」




翠くんはそう言って

私の髪を優しく撫でる。





「触らないで!」




私は翠くんの頬を叩き、突き飛ばす。




「何でこんなことするの?! というか黄衣ちゃんは、あなたの仲間でしょう?! 魔女狩りだって
そうだ。そんな簡単に、他人を傷付けて
良いわけないじゃない……!」





「それは人間の常識だろう? 僕たちは
悪魔だよ」




翠くんは不機嫌そうな声でそう言って

血の付いた短剣を

私に向けた。





「女の子に殴られた……明日から
生きていける気がしない。もう嫌だ、
この子は殺そう」




翠くんは短剣を振り上げたので

私は目を閉じた。






それにしても、つまんない人生だった。

まだ十六年しか生きてないのに、
もう終わるんだ。


統合的に見れば幸せに見えたのかもしれない。

けれど、生きてて楽しいことなんて
何も無かった。



勉強も部活も何となくやってただけだったし
熱中できる趣味も無かった。

親友と呼べる存在にも出会わなかったし

恋人だっていなかった。



まあ、周りに見た目とか性格が良い人が
いなかったというのもある。




それを考えたら、最後にかっこいい男の子に
ナイフで刺されて死ぬのは

案外 理想的な死に方なのかもしれない。




ああ、ごめんねユキちゃん。

もう会えそうにないね。



せめて、一目だけでも会いたかった――。