「私には慧しかいない。だけど、慧にも私しかいないの。私じゃないと・・・・・・慧の純粋さや美しさには・・・・」


「舞嶋さん・・・・」


(あなたも・・・・・きっと怖いくらいに純粋で美しい)


「それを分かってもらいたくて」


姫華は備え付けの冷蔵庫からペリエを取り出してコップに注ぐ。


「はい、せんせ。コレ飲んで」


持っていたスナップを取られ、代わりに冷えたグラスを渡される。



飲んじゃいけない。

咄嗟にそう思う。


あまりにも不自然なタイミング。


けれど、また同じ様に一方では飲まなければならないとも思うのだ。



それが、この少女の望みなら。





咲は渡された水をグラスの半分程まで一気に飲んだ。




「・・・・・・先生って、ちょっとお人よし過ぎるんだね」


哀れみに似た穏やかな表情。


咲はそんな姫華に薄く笑って言う。


「そうね・・・・たまにそんな様な事、言われる」



(間違って無いなら、これでよかった・・・)





あれ?


と、思ったときにはがくりと膝をついていた。


手にも力が入らなくてそのまま持っていたグラスを手放す。

中の水がこぼれて床の絨毯の上に広がった。


「大丈夫、死んじゃったりしないから」


姫華が寝室のドアを開ける。


「お待たせ、先輩」


出てきたのは高平だった。


(高平くん・・・?)


「コップ半分位しか飲まなかったけど」

「充分」

「そ、じゃあ後は先輩にあげる」


身体からどんどん力が抜けていって、目が回るよりももっとぐらぐらと頭がぼうっとしてくる。


咲はそのまま意識を手放した。