「・・・・せんせ、言っとくけど・・・・・」
唇が離れて、目が合ったまま慧が言う。
「俺はもちろん酒なんて飲んでないから」
その言葉の意図は。
「先生はお酒のせいするかもしんないけど。
だけど、俺はそういうんじゃないから」
「・・・だ、けど・・・・・・・」
「うん」
慧は急かす事無く咲の言葉を待つ。
「だ・・だって・・・」
「うん・・・ごめん、分かってる」
その慧の顔を見て、咲は頭を殴られたような気分になった。
なにしてるんだろう・・・・・・
そもそも、一体どうして―・・
「白河くん・・・・・」
こんなところに―・・
目を伏せた慧の顔を覗きこむ。
「ねえ、なんで・・・・どうして今日うちに来たの?」
自分はなんて愚かなんだろう。
「なにか・・・・・・あったの?」
ガードレールにもたれて待っていた慧のあの目を思い出す。
あんなところにどれだけいたのだろうか。
一体何の為に?
探るように見つめ返した瞳は、しかしすぐに逸らされる。
「ごめん、俺帰るわ」
咲の身体から手を離す。
「え」
「こんな時間にごめん」
言うと、そのまま玄関から出て行ってしまう。
重く閉まるドアが、まるで慧の心の様だと思った。
何があるのだろうか。
何があったのだろうか。
一体どういうつもりでキスなんてしたのか。
慧も、自分も。