―どうでも良かった


咲の頭に、学校で聞いた慧の言葉が響く。



「・・・・・でも、別に何も無いんだから。

偶然会ってしゃべってただけで・・ただ、それだけで・・・」


「それが通用するやつじゃないんだ、姫華は・・・・

今までも同じ様な事ってか、姫華の誤解みたいなのは何回かあったんだけど

ここまで取り乱したりする事は無かったから、正直今回何するか分かんない」



―深見の事なんてなんとも思って無い・・・




「・・・・・・・・」

「俺も姫華に良く言うけど、先生、今後もし何かあったら必ず、すぐ俺に連絡して」



―今後一切関わらなくたっていい



(じゃあどうして?

なんで今ここにいるの?)



裏腹な慧の態度をはかりかねる。



「・・・舞嶋さんの事、大切なんだね」


気が付くとそう言っていた。



「・・・なんで?」



すぐにしまったと思ったがもう遅い。

焦りはじめた気持ちとは裏腹に、口は勝手に次の言葉を紡ぐ。


「だって、白河くんていつも冷静な感じなのに舞嶋さんの為に、こんな時間にこんな所まで来るなんて」


「・・・・・・・」



慧は何も言わない。

気のせいだろうか、目の前のこの少年が傷ついた顔をしたように見えたのは・・・・


「キス、しちゃえば良かったのに。今日」


(ああ、お酒のせいだ・・・・)


「そしたら舞嶋さんだってその場で納得したかもしれないのに」


(絶対そうだ・・・・・・

全部お酒のせいだ・・・・


こんな事言うなんてどうかしてる)




「・・・教師が言うセリフかよ」


そうつぶやいた慧は黙ってコーヒーを飲む。


(どうして?どうして怒るの?

ううん、なんで私、こう言うと白河君が怒るって、思ったんだろう?)