しかし慧はこの咲の問いは無視するように
別の質問で返す。
「・・・・・さっきの先生の彼氏?」
「え」
「さっきの、タクシーの中にいた人」
「え?・・いやいや、違うよ、そんな訳無いじゃない」
「・・・・・」
「あの人はちょっとした知り合いなだけ」
慧は一瞬咲を見てからふうん、と言った。
何と返すべきか、と考えている内に、唐突に慧が切り出す。
「今日、ごめん」
「今日?」
「姫華が・・・・」
「ああ・・・・・うん大丈夫だよ。気にして無いから」
何故かトゲのあるような言い方になってしまった事に自分で驚く。
慧は気づいただろうか。
慧を見ると、表情の読み取れない顔で咲を見ていた。
そのまま話を続ける。
「なんか・・・・俺と先生がこないだ表参道で一緒にいた事、何故か知っててさ・・・・」
「そう・・・・」
つぶやいてからあ、と思って顔を上げると、
微かに不信な顔をした慧と目が合う。