この機を逃すわけにはいかない。


すべての集中をチンロンに向ける。

空の色よりもずっと濃い美しい青い龍が徐々に迫ってくる。

金属がぶつかり合うような叫び声が近づいてくる。


あたしは杖を掲げて攻撃の算段を考える。

どんな魔法なら効果的なのか、チンロンはどういう反応をするだろうか。

いくつも飛び交う考えがひとつにまとまる頃、チンロンはすぐ目の前まで迫ってきていた。

その鋭い牙であたしをかみ砕こうと口を大きく開けて地面すれすれを飛んでいる。


「由良!」


翔太の叫び声と共にあたしは杖を握りしめる手の力を強くして、チンロンを見つめたまま叫んだ。


「"ファイヤー・ゲージ"!」


叫んだのと同時に、チンロンを囲むように炎の柱がいくつも現れた。

チンロンは驚いた様子で叫び声を上げながら空へ逃げようとする。


けれどあたしがそれを簡単に許すはずはなかった。

チンロンが驚いて空に逃げることなんて、最初から分かっていたことだ。


空へと逃げようとするチンロンを逃がさないように、炎の柱の頂点と頂点がまた炎で繋がって、炎でできた大きな檻のようになった。

その中に閉じ込められたチンロンは逃げ場を失い、焦りからか狂ったようにあちらこちらをふらふらと漂いなんとか抜け口を探そうとしている。

けれどこれはあたしが創り出した炎の檻だ。どこにも逃げられる場所なんてあるはずない。