「当主だろうが知らないものは知らない。相手は伝説上の存在、聖獣だぞ?詳しい方が驚きだろ!」


舌打ちをしてそんなことを言うが、確かにその通りだとも思った。

あたしだって知らない。その名前くらいしか聞いたことがない。

何かチンロンについて知っていることはなかったっけ。

必死に思いだそうとしながら考えていると、突然翔太が「由良!」と叫んだ。


「危ない!」

「え?」

「早く逃げろ!」


けれど翔太の言葉と共にチンロンは叫び声を上げた。同時に地上の木々が急に伸びてきてその蔓(つる)があたしの箒を絡めとり、地上に引きずり落とす。


「うわ!」


突如強い力で地上に引っ張られ急降下する。箒だけでなく手足も蔓に絡まって身動きが取れなくなっていく。


「由良!」


翔太は焦ったように声をあげ、あたしに手を伸ばす。

どんどん蔓が体に纏わりついていく中、それに気づいたあたしは慌てて「来ないで!」と叫んだ。


「翔太まで巻き込まれる!」

「けど!」

「大丈夫、どうにかするから!」


蔓が巻き付いてくるという突然のできごとに驚きながらもあたしはとっさに杖を振り上げながら「"ファイヤー"!」と叫んだ。

するとどこからともなく炎が現れて、箒や体に纏わりついていた蔓が燃えて落ちた。

地上に引きずり降ろそうとする力はなくなり、箒は緩やかに地上に舞い降りる。

ほっと息を吐き出すと、翔太が追いかけてきて「大丈夫か」と慌てた表情を見せた。