チーリンが現れたときからその可能性を考えてはいた。

考えてはいたけれど。


「こんなの聞いてないんだけど!?」


聖獣が一日に二体も現れるなんて!

どうしよう、と考えていた時すぐに翔太が言った。


「とりあえず、姫をお守りすることが最優先だ。姫達は急いで王城に向かってください。その隙に俺と由良はチンロンを引き付けます!」


「けれど!」


そんな危ないことをするなんて、と姫は引き留めようとするが「早く!」と翔太が言うので覚悟を決めた様子だった。


「心配なさらずとも、俺達には姫から頂いた"とっておき"がありますから」


赤く深く光る、魔石ガーネット。

他の魔石よりもずっと強い魔力を蓄えている石。



「さあ、早く」


翔太が優しく微笑むのを見て、姫は「ご武運を」と言うと王城へと急いで向かった。

その微笑みに少しだけ気持ちがモヤモヤして、翔太を見つめていると目が合った。


「いくぞ、由良。…なんだ、びびってんのか?」


翔太があたしに言う。挑発的ないじわるな笑みを浮かべて。

あたしはそれにむかついて「誰に向かって言ってるの」と言った。


「あたしは"ガーネット"の魔法使い。敵相手にびびるわけがないでしょ!」


それから翔太は「ほんと勇ましいな」と笑うと「行くぞ」とチンロンを見据える。

あたしは頷いて、それから徐々に近づいてくるチンロンに向かっていった。