放課後。
今日は優希さんから所用で遅いと連絡が入った。その連絡も謝罪や自身がいないときの注意事項などが書かれており、優希さんの優しさが滲み出るものだった。

昨日こってりと絞られたのに、こんなにも優希さんのことを考えてしまう私は相当手遅れなのだろう。
ー大好き…

一人で想って一人で照れて端から見れば私は変態扱いされてしまうことでしょう。

「何考えてんだよ」

少年というよりは少し低い声が響く。微かな甘ったるい香水の香りと共に現れた男は、私が見上げる程の身長。目測で178…くらいだろうか。茶髪の癖っ毛。如何にも不良です、という雰囲気を醸し出すその人は、昨日もそして今日も仁美が語っていた…

「宮本…ゆう…と?」

「んだよ」

本人だった。
めんどくさそうに私を睨み付ける姿は昨日女の子を侍らせていた様子とは大きく異なり、年相応の不良少年のようだ。

「んだよって、貴方が声を掛けて来たのでは?」

そう。私に声を掛けて来たのは、宮本勇斗ではないか、何故私がめんどくさそうに言い返されなきゃならないのだ。
だが、私は次の言葉(文句)を言い出せなかった。
見てしまったのだ。めんどくさそうに睨み付けるその顔が一瞬悲しそうな、悔しそうな顔をしたのを

「あな「勇斗」
…え?」

「貴方じゃねぇ。勇斗」

なんだこの男。
下の名前で呼ばれたいのか。

「宮本くん。」

ちょっと腹立たしかったので、苗字で呼んでみた。すると、不機嫌そうな顔をして、続けて"勇斗だ"と返される。
これでは、話が進みそうにない。
私は仕方なく、大人になってあげた。

「それで、どういうこと?
"勇斗くん"」

初対面で呼び捨てはさすがに気が引ける。というか、私が好ましくない。優希さんでさえもきちんと"さん"付けで呼ぶくらいなのだ。
初対面で呼び捨てなどしたくない。というのは、口実でやはり最初に呼ぶのは優希さんが良いのが私の心だ。

「ボッチが、こんな町中で呆けた顔してるからな…気になってな」

余計なお世話である。
それは、誰でも好きな人のこと考えてたら呆けた顔になってしまうだろう。

「好きな人のことでも考えてたのか?」

何故分かるのだろう。
というか、悟りとかなのだろうか…!?

「図星か…」

「なんで!?」

「お前、図星なとき耳触るんだよ。
考えてるときは髪の毛をすくように弄ってる…」

そう言って笑う勇斗くん。でもその笑顔の中にも不思議な哀しさが滲み出て…
それに、昔からずっと一緒にいたような台詞…

私が、宮本勇斗と話した印象は、
感じが悪い不良少年。でもそのなかには、何故か、哀しさが混じっていて…不思議な気分になった。