「何故こんな時間に…」

気づけば私は笑っていない彼に質問をしていた。
いや、周りから見れば笑っているように見えなくも無いのだろうけど、
なんというのだろうか。
笑ってはいるのだ。

笑ってはいるのだが、いつもは優しく包み込むように微笑むことが多いのに、
冷たい笑みというのだろうか。
そういう空気を醸し出して立っている。

そんな彼の姿に、ああ私死んだなとか思いつつフラグを崩すことに専念することにしたはずだったのだが…

「愛華ちゃんこそ、学校はどうしたのかな?
僕はね、選択している科目の教授が急病で早退してしまったから授業することなく帰ってきてしまったんだ。」

そのとき私は心底思った。
というか…教授!ドンだけ脆いの!
しかも何で私がサボタージュした日に限って早退とかしているんですか!?

ガラにも無く思い切り叫びたくなった。

兎にも角にもお怒りである優希さんをどう押さえ込むかが私のこれからを左右することになるでしょう。

「もう一度聞くね。
愛華ちゃんこそ、学校はどうしたのかな?」

…かなりお怒りであるようだ。
いつもなら、答えを急かすようなマネをしないのだ。
優しく微笑んで私が打ち明けるのを待ってくれる。
そんなところが優しくて好きになってしまったのだが…

ここで私は勢いに余って考えずに口を割ったのがいけなかったのだと思う。
まあ今更こんなことを振り返っていても仕方の無いことなのだが…

「く、クラスでインフルエンザの人が十人くらい出て、学級閉鎖になったので…帰ってきました」

「へえ、この時期にインフルエンザだなんて珍しいこともあるものだね?
しかも十人。」

確実に死刑執行ルートでした。
私ってば、成績は優秀なくせに今は何月!
5月よ!インフルエンザは冬季発症じゃない!

しかも、学級閉鎖とかなら朝のうちに連絡が来ていても可笑しくないし、それに途中下校なんてあり得ない。

このとき私は、ただ純粋に目の前で微笑む優希さんを見て、ああ詰んだな。と思いました。