「…ち…あ…ちゃん…
愛華ちゃん!朝だよ!
起きないと学校に間に合わないよ!」
優しく微笑む男の人。
身長は私を尤に超していて、クリーム色のふわふわとした髪。日本には珍しい水色の瞳はタレ目で、和やかな雰囲気を醸し出している。
これから大学に行くのだろうか、鞄を背負ったこの人こそ、あの日私に手を差し伸べた雪森優希である。
「起きましたよ…」
「愛華ちゃん、おはよう!」
「…おはよ…ございます…」
まだ眠くて目を擦る私の頭をそっと撫でる優しくて、大きな手。
この優しさが、大好きで…
私はこの人が好きなんだなって確認させられる。
でもその優しい手は、私のことが好きだからというわけではなく、妹のように思っているからのことだと私は知っていた。
だから、この手は私にとって好きでもあって、なんだか不愉快にもなる。
「顔…洗っておいで?」
「ん…」
なんだか、やっていることがお母さんみたいな優希さん。そんな姿に軽く笑いつつ洗面所に向かう私も私で、重症なのだろうか。
洗面所につくと、
顔を洗って、軽く髪を整える。その間にも私の道具と共に優希さんのヘアブラシや歯ブラシがあるとなんだか、心踊るような心地になる。
腰まで長く延びた髪は、解かすのが大変で最近は優希さんにやってもらっている。
まるで、新婚さんみたいだなとは思うのだけれども結局優希さんは、私のことを妹くらいにしか見ていないため心苦しい…
「優希さん、今日もお願いして良いですか?」
そうであれど、優希さんに頼んでしまう私はやっぱり彼に溺れているのだろう。
優希さんは、朝食を作り終わっていたようで、軽く微笑むといいよと私の髪を解かし、結んでくれる。
彼が髪を解かして、結んでくれる。そんな静かな一時が私のお気に入りでもあった。
「うん。できた、今日は二つにしてみたんだけどどうかな?」
綺麗に結ばれた腰まである長い黒髪。耳の後ろの方で二つに結ばれ、後ろに流れている。
こういう器用な優希さんを見るとやはりかっこいいなとか思ったりする。
「ありがとうございます!」
「じゃ、朝食にしよっか。準備手伝ってくれる?」
こうして、私を引き取ってくれた彼(好きな人)との一日が始まる。