「いらっしゃーい」


そう言って出迎えてくれた先輩方。


強豪校なんて言われてるから、もっと
空気がピリピリしてるのかと思ったら
ちがった。逆にほわほわしていた。


「あ、とりあえず座って」


「はいっ」


そこらへんの椅子に座り、背筋を伸ば
した。

先輩の前では、緊張しすぎて声が小さ
くなり静かすぎる子になる。中学でも
そうだった。


「あ、マッピ何使ってた?」


「えっと...」


先輩に聞かれて少し戸惑った。

マウスピースなんて気にせずに学校に
あったやつをそのまま使ってたから、
何使ってたか覚えてない。


「あ、もしかしてYAMAHA?」


そう言って先輩が手に取ったマウスピ
ースをみてこれだと思った。


「あ、これです...」


「はい。
じゃあ、普通に音だしとかしてて~」


「はいっ」


マウスピースを口にあて吹いてみた。

ブーッと音が鳴った。

しばらく吹いてなかったから、吹けな
いと思っていたけど結構吹けた。

そして、楽器につけ、吹いてみる。


パーッ


音が出た。
久しぶりのホルンの音。


感動して、他の音も試してみる。
だけど、高いドまでしか出なかった。

頑張ってレの音。


何回か吹いてみるけど、全くと言って
いいほど上手く吹けなかった。


「何吹いてたの?」

先輩にそう聞かれ、

「あ、ホルン吹いてました」

と答えた。
少し胸が痛む。


「そうなんだー
あ、じゃあこれ。簡単な曲だから。
暇だったら吹いてみて」


「あ、はい。....でも、今私音が出ない
んです...7ヶ月ぐらい吹いてないんです」


「7ヶ月も!?
それはきついね。
....でもまあ、ここに入るつもりなんで
しょ?
それなら絶対、感覚なんて戻せるから
大丈夫!」


そう言って、


「次の子が来るまで後10分ぐらい吹い
てて!ごめん!」


といい、忙しそうに自分の仕事をしに
戻った。




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