肉食系赤ずきん―彼女は獲物を捉える―


トントン、戸を叩く音が聞こえて狼さんは素早くベッドに潜り込みます。


「は、はい、どなた?」

「おばあさん、赤ずきんよ。お菓子と葡萄酒を持ってきたの」

「入っておいで」


キィと扉が開く音、その後にパタンと閉まる音がしました。それを耳にして狼さんは内心ドキドキです。

一歩一歩赤ずきんちゃんが近付く気配がします。おばあさんに成りかわった狼さんは最早心臓が壊れそうでした。


「……あら?」


赤ずきんちゃんは何かに気付いたように不思議そうな声をあげます。


「おばあさん、なんて大きなお耳」

「っ、そ、それはお前の声がよく聞こえるように…」

「なんて大きなおめめ」

「そ、それは…、ぁ、お前がよく見えるようにさ!」

「なんて大きなおてて」

「ぅ…、それはお前を捕まえられるように…」


若干詰まりながらもしっかりと答える狼さんに赤ずきんちゃんは吹き出しそうになりますが、そこは耐えます。


「なんて大きなお口」

「……それは、お前を食べちゃうためさっ!」


ガバッと起き上がった狼さんは赤ずきんちゃんに襲いかかります。

赤ずきんちゃんが食べられてしまうと思われたその時、ニィと妖しげに唇を歪めた彼女は両手を押さえつけキラリと光る銃口を狼さんに向けました。

その出来事を理解した狼さんは悲鳴をあげ、ガタガタと怯えはじめます。


「ねぇ狼さん」

「は、はいぃぃ!」


赤ずきんちゃんの瞳は獲物を狩るように鋭く、ランランと輝いています。


「おばあさんは何処?」

「ク、クローゼットの中ですぅぅ!」


(……やっぱり食べなかったのね)


食べないだろうとは考えていたけれど、もし食べていたら引き裂いてやろうと思っていたわ、と呟いた赤ずきんちゃんに狼さんは顔面蒼白です。


「ねぇ狼さん」

「は、はい!」

「私を食べたい?」

「…………へ?」


こてんと首を傾げ問い掛けてくる彼女に狼さんは驚いて間抜けな顔になりました。


「どうなの?」


カチャリと更に銃口を近付け、にこっと可愛らしく微笑む赤ずきんちゃんに彼は泣きそうになりながら大きく頷きます。


「…そう。それなら食べてもいいわよ」

「え、と…」


狼さんは困惑しました。

恐がったり今の状況のように殺されかけたことはありますが、食べてもいいだなんて言う人は今まで見たことがありません。


「あ、あの…」

「ただし」


赤ずきんちゃんは何かを言いかけた狼さんの言葉を遮り、妖艶に笑みます。


「狼さんが私を食べる前に、先に食べちゃうけどね。あぁ勿論、食べるといっても食事の方じゃないわよ?」


ふふ、と綺麗に微笑む彼女に意味を理解したのか狼さんはかぁっとまるで乙女のように顔を赤くしました。


「かわい」

「う、ぁ…」


顔を隠したかった狼さんですが赤ずきんちゃんに両手を捕まれてるので、それは叶いません。


「狼さん、残念だけどとてつもなくがっかりしているけれど、此処にはおばあさんもいることだし、今この場で狼さんを食べるのはやめておくわ」


でもね、と赤い唇を狼さんの大きなお耳に近付けて彼女は呟きます。


「貴方を必ず食べるわ。私、――――狙った獲物は逃がさない主義なの」


こうして狼さんは強制的に赤ずきんちゃんに連れ去られ、さらには彼女の説得によりお母さんに認められてしまい、仲良く三人で暮らしましたとさ。


「な、仲良くなんかないっ!」

「あら…、仲良くないの?」

「う、あ…」

「私は狼さんのことこんなに可愛がってあげてるのに…」

「だ、だから近付かないでっ!」

「ふふ、照れなくてもいいのよ? ……可愛い」

「っ、 て、照れてなんかないってばーっ!」


さて、物語はまだ始まったばかり。


「ほら、こちらにいらっしゃい?」

「い、行かないよ!」

「……あら、じゃあ私が行こうかしら」

「こ、来ないで! き、来たら本当に食べちゃうから…!」

「っ」


勝つのはどちら?



【END】



ここまで読んでいただいてありがとうございます!


久し振りに小説を執筆致しました。

いやー…、申し訳ないです本当に。

赤ずきんちゃんの色気にあてられながらもなんとか執筆出来て良かったです…。


さてさて、これは表紙や本編の最後を読んでわかるように赤ずきんちゃんと狼さんの勝負でございます。

赤ずきんちゃんか狼さん、果たしてどちらが勝利するのかは読者の皆様のご想像にお任せ致します。


また何処かで読者様と出会えることを願って。


早瀬 桜

2015.8.1

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