私の言葉にそうだねと呟き、逢沢は近くにあったテーブルに鞄を置いた。
「好きな本見てていいよ。俺は俺で本探してくるから」
「はあ…」
そうして逢沢は私に背を向け、どこかへ行ってしまった。
……これ、デートなのか?
ま、いいや。
とりあえず私も、適当に本棚のところを見て回ろう。
私は鞄を置くと、逢沢が行った真逆の方の本棚へ向かった。
「……………」
難しそうな本ばっかだなあ。
逢沢はどんな本を読むんだろ。
「ごめん、ちょっといい?」
「!!」
突然聞こえた真横からの声に私は一瞬肩をあげた。
「あ、ごめん。ちょっと本をとりたくて」
男の人だった。
大学生かな。逢沢よりもちょっと大人っぽい。
「こちらこそすみません」
私は軽く頭を下げ、三歩ほど横へ移動した。
すると彼はありがとうと微笑み、本を手にとった。
「あ、もしかして君もこの本を読もうと思ってた?」
「い、いえ!そんな難しそうな本は読めません!」
「難しい?そんなことないよ。たしかに表紙は堅苦しくて難しそうな本に見えるけどね、すごく面白いんだ。俺の好きな作家さん」
「そうなんですか…」
こんなにも楽しそうに本の話をされると、難しそうな本でもトライしてみたくなるな。
「俺が今読もうとしてるのは二巻だから、読みたい本を探してるならこれの一巻を読んでみて」
「は…はい」
何故だろう。
この人とは初対面のはずなのに、すごく前からの知り合いみたい。
この人の笑顔が人の心を引き寄せるのかな。
ぶっちゃけ今私、逢沢よりもこの人に心…
「ちょっと」
……………逢沢や。
「あんたにオススメしたい本があるから、来て」
「え!?ちょっ……!あ、すみませんでしたっ‼」
逢沢に無理矢理引きずられながら私はその場を後にした。
それにしても、いきなり出てくるとは。
逢沢、神出鬼没説の確立。
「…ねえ、今の誰?」
「はい?」
逢沢に連れられたのは人気のなさそうな図書館の隅っこであろうところ。
手を離されたと思えばいきなりこんな質問がとんできた。
てゆーか、オススメしたい本があるんじゃないの?
「俺には言えない人なの?」
「え。いやいや。初対面です」
「ふーん、ずいぶん仲良さそうだったけど。少なくとも俺よりは」
…………なんか、不機嫌でいらっしゃる?