誰とも擦れ違わなかったので、大半の生徒は帰ったんだろうと思っていた。

が、



「……あ」



出入り口に、芹沢の後ろ姿を見つけた。

芹沢は俺に気付かず、どんよりとした空を仰いでいる。



あぁ、そうか。

傘がないのか。



関わりも何もないヤツなら、気に留めることなく素通りしていただろう。

……だけど。



「……使えば」



ぶっきらぼうにそう言った俺は、佇む芹沢に傘を差し出した。

そこで漸く俺の存在に気付いたらしい芹沢は、目を見開いて、少し怯えたように俺を見ている。



「あ、綾瀬君……?」

「傘、ねえんだろ」