「……そうだ。私、千速くんに言っておかなきゃいけないことがあって」



少しの沈黙の後、美生が話を切り出した。



「……言っておかなきゃいけないこと?」

「うん」



あのね、と続けた美生の笑顔が、瞬時に切り替わった気がした。

それは、美生がいつも壁を作るときの。



瞬間、嫌な予感が胸を掻き立てる。

聞いてはいけない、と、頭の中で警報が鳴り響いたのに、



「来週──ここを出ようと思うの」



それは何の容赦もなく、俺を突き刺した。

見えない傷口から、血が溢れているような気がして。



「……それって……」

「家に帰ろうかなって」



急激に心拍数が上がっていくのがわかる。

これが幻であれば、夢であればいいと願うのに、皮肉にもこれは現実だってわかるから。



「……家出して1ヶ月と少しが経ったけど、やっぱりこのままじゃ駄目だなって思って」

「戻って……来るよな?」

「ううん、戻らない」



淡々と、まるで感情の一切を殺したような声で、俺の一番聞きたくない言葉を君は言う。