そのとき俺は、ちゃんと笑えるかな。

もう……逃げないでいれるかな。



「……私、思うんだ」

「ん?」

「今現在の自分は、これまでに出会ってきた人達によって造られてるって」

「……」

「大切な人がくれた言葉とか想いとか、記憶とか。その全てが、自分を満たす」



目を伏せて穏やかに笑う美生は、何を思い、何を感じてるんだろう。

出来ることなら、同じ世界を見てみたい。

美生の言葉には、いつも迷いがないから。



「それは他の誰かも同じで、私も誰かの一部になってるのかもしれないって思ったら、背筋が伸びるの」

「じゃあ俺も……今の美生を造ってる?」



情けない、弱々しい声に、美生は笑顔で応えた。



「造ってるよ。今の私は、千速くんで出来てる」

「そっか。……そっか」

「ねぇ、千速くん。18年前の10月29日……この世に生まれてきてくれて、ありがとう」



やば……。

嬉しくて、泣きそうだ。



ぐっと、こみ上げそうになったものを堪えると、それ以上言葉を発することが出来なくて、俺は黙り込んだ。