俺の過去を知っていて、それでいて、穏やかな声色で問い掛けてくる美生。

人間の記憶ってのは不思議で、忘れ去っていた筈の遠い昔のことも、何かのきっかけで思い出せるらしい。



「……うん。朝学校行って、コイツの教室まで走って……おはようの前に、おめでとうって……」



懐かしさが胸をくすぐる。

まっさらだった日々。

もう一度あんな風に笑えたら……なんて、あの頃にはもう、戻れやしないけど。



「そっか……コイツが“今日”を作ってくれたんだ」



もう暫く会っていない、ついさっきまでは記憶の片隅に追いやられていた旧友に、心の中でありがとうと呟いてみる。

もしかしたら、どこかでばったり会ったりする日が来るのかな。