そうは言ったって……。



「やっぱ俺……こういうの向いてねえよ。今からでも、誰かと交代して──」

「アホか」



ぐいっと顔を寄せた桜井が、俺の頬を両手で抓った。

桜井の茶色がかった目が、真摯に俺を見つめている。



「他の誰かじゃ意味ないねん。俺は、お前と思い出を作りたい」



──公衆の全面で。

人が沢山いる中で。

桜井は周りを気にすることなく、そう言った。

真っ直ぐな、迷いのない言葉を。



「俺と……って……」

「正直初めは、クラスメート殴って停学になるなんて、碌なヤツじゃないんやろなって思ってた」



桜井の言葉に、最早力なく笑うことしか出来ない。



「けど。教室に入ってきた千速は、思ってたのと全然違ってて──だから、嫌がられるの覚悟で話しかけた」