少しずつ掴んできた、お互いの距離感。

それに対して、悪い気はしてねえんだ。



「さて、と。帰ろか」

「……あぁ」



桜井の声に、鞄を持って教室を出ようとしたとき、か細い声に呼び止められた。

振り向くと、そこには長い髪を横で束ねた芹沢の姿。



「……何?」

「な、何ってわけじゃないんだけど……」

「……?」



視線を泳がせ、中々言葉を口にしない芹沢を見た桜井は、何故か口元を緩めて「先行ってる」と言葉を残し、教室を出て行ってしまった。



「用ないなら……俺も行くけど」

「あ……っさ、」

「……さ?」

「作業……お疲れ様……っ」



ぎゅう、とスカートの裾を握って、消え入りそうな声で言った芹沢。

この一言のために、どれだけの勇気がいっただろう。

そう思うと、ひどく可愛らしく思えて。