「この前、傘貸してくれたよね……。私が風邪引くと困るからって、自分がずぶ濡れになってまで……」

「それは……」

「そんな風に……仲がいいわけでもない私に傘を貸してくれた綾瀬君のこと、すごいなって……かっこいいなって思ったの」



はらり、と芹沢の目から雫がこぼれ落ちる。

それを皮切りに、彼女の大きな瞳から、次々と涙が溢れ出して。



「だから……私が憧れた綾瀬君のことを卑下にするのは……やめてください」



──あぁ。

これも、そうかもしれない。

自意識過剰かもしれないけど、でも、思う。



俺がさっき感謝を伝えていなければ、芹沢のこの気持ちを知ることは、出来なかったんじゃないかって。

俺が、今までのつまらない日常を変えたんじゃないかって。