10月に入り、夏服から切り替わったブレザーの中で存在感を放つ、真っ黒な学ラン。

少し赤みがかった髪を無造作にはねさせたソイツは──俺に近付いてきた。



周りがハッとして止めようとするけど、時既に遅し。

俺の目の前までやってきた。



「あんたが、綾瀬千速?」



その場の空気が凍りつく。

クラスメートは勿論、多分俺もぽかんとしていて。



「俺、桜井奏多(サクライ カナタ)!よろしくな!」



そう言って、差し出された右手。

周囲が心配と好奇の目でこちらを伺っているのがわかる。



俺は今まで……この手を、跳ね除けてきた。