美生がこんな風に思っていたこと。

全然、知らなかった。



「昨日も言ったけど、千速くんにはまだまだ沢山、するべきことがある。生きていく道がある。だからお願い、死ぬだなんて考えないで──」



昔からずっと、1人だった。



憂鬱な朝を自分の力で起きて、眠い昼下がりを耐えて、寂しい夜をテレビの音で誤魔化して。

朝も昼も夜も、傍に両親の姿はなかった。



恐らく同じような時を過ごしてきた美生の心を、俺が埋めたと君は言う。

それはもしかしたら、俺のど真ん中で──大きな存在価値になるんじゃないのか。



そう思ったら、腕が伸びていた。



「……っ!」



抱き締めた美生の肩は小さく震えていて、涙を我慢していたのだと知る。

出会ってまだ1週間と少しの俺のために、ここまで言ってくれる美生に、俺が出来ることはなんだろう。