「あんた、私と付き合いな。」
いつだったか、彼女が俺に言った言葉だ。まだ俺は弱くて、彼女の言葉に頷くことしかできなかった。その後にしたキスは、血と、俺の涙の味がした。


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俺の家は下町の工場で、父さんは工場長だった。少ない職人抱えながら、それでもなんとかやってた。俺と母さんが生活で苦しい思いしたことなんて無かった。
でも、下町ってのはいろんな奴がひしめく場所だ。一度路地に入れば、卑猥な店や厳つい兄ちゃんがたむろしてる。当然、俺の家もあるヤクザの縄張りの中にあった。シャバ代だかなんだかしらないが、いちゃもんつけて金巻き上げにくる時もあった。そん時だけだな、恐ろしい思いしたのはよ。

「おい。工場長出せや。」
見るからに怖そうなおっさんが、ある時工場にやって来た。確か、この辺仕切ってる実川組の組長だ。実川とか、可愛い名前してんな。
「おいおい、はよ工場長出さんか!みゆきちはどうしたよー?」
顔に見合ったドスの効いた声で俺たちを威嚇……うん?いまみゆきちとか言ってなかったか。確かに俺ん家の名字は御幸だけどよ。
「おー、えいちゃんじゃないか。久しぶりだなー。うん?小学校以来かー、元気してたか?」
「バリバリ元気だっつーの!なんだよ、みゆきちは工場長なんかやってんのかー、偉くなりやがってっ。」
ん?今俺の目の前で何が起こってる?ヤクザのおっさんと父さんが、なんか抱き合ってるんですけどーー。
「え?父さん、どういうこと。この人、誰?」
「ああ、一也。この人は俺の小学校時代からの友人でな、映川実基ってんだ。で、どうしたんだよいきなり工場来るなんてよ。」
と、父さんとヤクザの組長が友達だって。ああ、母さん今にも倒れそうだよ。
「ああ、実はな俺んとこの娘とみゆきちの息子が同じ小学校通うって聞いてな、挨拶に来たんだよ。ほら、実郷、入んな。」
工場の扉の奥から現れたのは、俺と同じくらいの年のツインテールの女の子だった。