放っておいたせいで鍋の湯は減っていて

もう噴きこぼれることも無くなってグツグツと泡がたっている。


その火を俺は急いで止めた。

さっきまで聞こえていたグツグツという忙しい音は淋しそうに静かになって


その静かさが俺の焦りを益々目立たせた。



電話を切ってから、レトルトの箱と格闘している優を急かしてトイレに連れて行く。


靴下を履かせて


靴を履かす。


出掛け際に鏡で一瞬髪を整えて、急いで扉の外へ飛び出した。


優と手をつないで駐車場まで急いで走る。



そんなに急ぐことは無かったのに


待ち合わせは30分後、ゆっくりでも全然間に合う時間。



俺の急いでいるのは、待ち合わせに間に合わす為じゃなかった。



心のどこかで、彼女との時間を1分1秒でも失いたく無いって思っていたのだと思う。



彼女が先に来て待っていたら

その時間すらもったいなく感じるから。


優を車の後ろに乗せて俺は待ち合わせのあのコンビニに向けて車を走らせた。