私の手首を掴んで、凌哉くんは鼻歌交じりで女子部屋のドアを開けた。


急に夜を2人きりで夜を過ごす事になっちゃった…

ちょっと待って!

まだ心の準備が出来てないよっ





パタン…




部屋に入るとゆっくりとドアが閉まり、凌哉くんは先にリビングの方へ行き自分の荷物の開けていた。

私は緊張しながら足を進め、バスルームや他の部屋をとりあえず確認…



やっぱり春子や妃華ちゃんがいない…

隣の部屋にいるのか。



どうしてこうなったの…?

別に嫌なわけじゃないけど…密室に凌哉くんと2人っていうのはちょっと…


しかもここは旅行先…

何かない方がおかしい。







「沙世」


ビクッ



バスルームのドアを閉めると、凌哉くんが私に近づいてきて声をかけてきた。ただそれだけのことなのに、今はドキドキしておまけになんだか緊張する。







「先に風呂入っちゃえば?」

「えっ…」


その凌哉くんの言葉が、なんだか妙に意味深に聞こえてしまう…






「う、うん!じゃあ入って来ようかなっ」


ぎこちない感じで言い、そそくさと荷物から着替えを出して逃げるようにバスルームに入る私。



とにかく落ち着け私!

変なふうに考えるからダメなのよっ…


別に同じ部屋にいるだけで、それ以上のことはまだないよね?

付き合ってまだそんなに経ってないんだし、お互いにまだそこまでは…考えてないと思うけどな。普段そっち系の話はしないし…

いや全く考えてないわけじゃないけど、やっぱりどう考えてもまだ早いよね?

だからそんなに緊張する必要も怖がる事もないのに…さっきから手は小刻みに震えるし、足はガタガタいってる…





「ふぅ…」


私は深呼吸して少し落ち着いたあと服を脱ぐと、お風呂場に入ってシャワーを浴びた。

ぬるめのお湯にしばらく打たれて出ると、気持ちが多少リフレッシュしてさっきよりも軽くなったみたい…



いつもみたいに普通にしてるのが一番だよね!

凌哉くんと2人きりになれたんだから、純粋に楽しめばいいんだよ♪


私はそんな事を考えながらバスタオルで体を拭いたあと、ルームウェアに着替えた。



でもボディークリームくらいは塗っておこうかな。あれ香りが持続するから香水変わりになるし…




ポーチからクリームを出すと、腕や足にすり込むように塗りまくる。

これは薔薇でどちらかというと甘い香りだけど、凌哉くんはどんな匂いが好きなんだろう…

さり気なく聞き出して、その香りの香水とか買っちゃおうかなぁ。







ガチャ




「入るぞ」

「!」


洗面台の上に足を乗せてクリームを塗っていたら突然バスルームのドアが開き、凌哉くんが中に入って来た。






「ちょっと…!開けないでよっ」

「もうとっくに着替えてるだろ」


待ちくたびれた様子の凌哉くんは、着替えをかごの中にそっと入れた。




ノックもしないで開けるなんて最低っ!

もし着替えが済んでなかったらどーするの!!?


それに足を上に乗せてクリームを塗っていた姿を見られたのって、結構恥ずかしいんですけど…






「お前長いから待ってられなくてさ。誰かさんのせいで今日はたくさん汗かいたから、早く風呂入りたいんだよ」


凌哉くんは皮肉を混じらせて言うと、上に来ているTシャツを私の前で脱ぎ始めた。


引き締まった凌哉くんの上半身の裸が目に飛び込んで来て、私は思わず声をあげる。






「な、なに脱いでんよっっ」

「は?何恥ずかしがってんだ?」


凌哉くんはそう言って脱いだTシャツを床にポンと置くと、今度は履いているズボンのベルトに手をかけようとする。






「も、もう出るからっ!」


私は脱いだ着替えやポーチを持って、慌ててバスルームから出て勢いよくドアを閉める。

そしてドアにもたれかかりながら、切らした息を整えて真っ赤になった頬に手を当てる…





凌哉くんの体…すごい引き締まってたな。あんなの見たらドキドキして当然だよね…

鍛えてるのかな?

でも筋トレとかやってなかったら、普通あんなに筋肉とかないよね。腹筋とか結構割れてたし…


きっと凌哉くんに直接聞いても言わないだろうから、隆也くんにコソッと聞いてみよ。




私はドキドキがおさまらない中リビングに戻って一度荷物を整理したあと、ドライヤーで髪を乾かしながらバスルームの方をチラチラと気にする。


凌哉くんがお風呂から出てきたら、私普通にしてられるかな…

変に緊張し過ぎて雰囲気壊したくないし…頑張って普通にしてないとね。



うぅ、それにしてもなんだかちょっと寒いな…

いくら夏だからって、タンクトップで腕出してるとさすがに冷えるわ。



自分のカバンからパーカーを出して羽織ると、ちょうど凌哉くんがバスルームから出てきた。






「お、おかえりぃ…」


普通に普通に!




凌哉くんは上半身裸のままで、バスタオルで髪の毛を拭きながらこっちに近づいてくる。