なんとなく…もう一度止めることはできなかったな……





「春子…なんだって?」


妃華ちゃんがドアの側にいる私に近づき、小声でそう聞いてきた。





「ごめんねって言って…行っちゃった…」

「…そう」


私と妃華ちゃんは春子の気持ちを知っている為、春子の行動の意味はお互いに理解しているように見える。


さっき2人であんなに盛り上げちゃったから、余計に傷ついたんだよね…







「今は1人になりたいだろうから、少しそっとしておこうか」

「うん…そうだね」


春子の性格からして、今は誰かに一緒にいて欲しいとは思ってないと思うし…






「どうした?」


するとリビングから凌哉くんがやって来て、私達の様子を見て心配そうな顔をした。




「女の子は複雑なの」

「あ?」


一言そう言って去っていく妃華ちゃんの言葉に、凌哉は首を傾げる。





「何かあったのか?もしかして…また妃華にいじめられた?」

「違う違う!春子のことだよ」

「小川?」


ドアの近く壁に寄りかかり、凌哉くんとヒソヒソと話す私。





「小川がどうかしたのか?」

「うーん…色々あって。あ、そうそう!ちょっと聞きたいんだけどさっ」


そうだ!

柳田くんのこと凌哉くんに聞いてみよ。


私は凌哉くんの腕を握り、耳元に近づくと更に小声で話す。






「なんだよ…イチャつくなら外行こうか」

「え…」


嬉しそうにニヤニヤ笑う凌哉くん。





「ち、違うよ!」

「違うって言うなよ!傷つくな」

「ぁ…ごめん。でもいまは違うの!」


私は真剣に話してるの!




「はいはい。どっちにしてもここじゃなんだから外出るぞ」


凌哉くんは私の手を握ってドアを開けると、リビングにいるみんなに一言声をかけて部屋を出た。

そして2人で何気なくやって来たのは、ペンションの入り口の近くにあるベンチで、私達はそこに並んで腰掛けた。






「それでね、改めて凌哉くんに聞きたいことがあって……………っ!」


ベンチに座るなり凌哉くんは私の肩を馴れ馴れしく抱き、私に顔を近づけてキスをしようとして来た。





「ダメ!」

「う゛っ…」


とっさに突き飛ばすと、凌哉くんのうなる声が響いた。





「せっかく2人きりになったのにつれねえな!俺はさっきの事根に持ってるんだぞ」

「え?」


さっきの事…?






「王様ゲームで最後お前に命令したこと…まだしてもらってないんだけど」

「あ…」


忘れてた!

春子のことがあったから、完全に頭から消えてたよ!





「ご、ごめん!でも皆の前でなんてどっちにしても絶対しないからねっ」


王様の言うことは絶対だとしても絶対にしない!

それにあの時は溝口くんの話から始まって、なんかちょっと王様ゲームから話が自然にズレた感じだったよね?






「わかってるよ。だからこうやって2人きりになったんだ…さぁ、思いっきり来い」

「だから~今は真剣に相談があるの」


私は真面目に話してるのにな…






「相談?」

「そう。柳田くんのことで」

「圭吾?」


柳田くんの名前を出すと、凌哉くんの顔つきが変わった。






「ねぇ…柳田くんの好きな人って春子だよね?」


私がそう言うと、凌哉くんはキョトンとした顔をする。





「さっき王様ゲームの時に、柳田くんは好きな人いないって言ってたけど…あれ嘘なの」

「…あいつそんな事言ってたっけ?」

「言ってたよ!「彼女か好きな人いますか?」って質問で「今はいない」って」


それを聞いて、春子がショック受けっちゃったんだから…






「…で?それがなんなの?」

「……凌哉くんにだから言うけど…前に柳田くんに春子のこと相談されたことがあったの。柳田くん春子のこと好きなんだって」

「あーそうだな」


私の話を聞いたあと、軽い返事を返す凌哉くん。






「やっぱりそうだよね!?凌哉くんも柳田くん本人から聞いたの!?」


仲いいんだから、そういう話してると思ってたんだ…





「いや。圭吾から直で聞いてはないよ」

「え?じゃあどうして…」

「んなもん見てればわかるだろ。俺の予想だと小川も圭吾のこと好きだよな?」

「う…」


これは頷いていいのかな…

でももうバレちゃってるみたいだけど。







「はい、これで新カップル誕生だな。めでたいめでたい。んじゃさっきの続きを…」


また私にキスしようとしてくる凌哉くんに、私は瞬時に止める。







「ならさっきの柳田くんの発言て何?「好きな人いない」って聞いて、春子が傷ついてるんだよ?」